【大谷昭宏のフラッシュアップ・07.10】:熱海土石流災害から2年 最後の行方不明者と執念の捜索
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【大谷昭宏のフラッシュアップ・07.10】:熱海土石流災害から2年 最後の行方不明者と執念の捜索
先週7月3日、熱海土石流災害は発生から2年となった。この日、静岡朝日テレビは特別番組を放送。私も出演させてもらった。
消防に通報があった午前10時28分、伊豆山地区では28人の犠牲者の遺族らがサイレンの音とともに黙とう。その中に、この日初めて遺族の1人として手を合わせる太田朋晃さん(57)の姿があった。
太田さんの母、和子さん(当時80)はあの日、濁流に押し流された自宅にいた。2カ月後、27人の死亡が確認される中、和子さんだけが行方不明のままだった。
その一方、警察の捜索で昨年6月には診察券が発見されたが、和子さんの行方は依然わからず、1年目の追悼式、太田さんはどうしても遺族として参列することができなかったという。
だが14カ月目には運転免許証。そして1年7カ月後の今年2月、私がこの局の夕方ニュース番組、「とびっきり!しずおか」の出演中に「土砂の中から人骨発見」の第一報。その数週間後にはDNA鑑定で和子さんの右前腕部の骨と判明した。
取材に応じてくださった太田さんの仮住まいのアパートの一室には、母の遺影とともに小さな白木の箱に入った遺骨が置かれていた。
猛暑の夏も、極寒の冬も捜索を続ける警察に、太田さんは診察券や免許証が届けられるたびに「これを遺骨と思って…」という言葉が出かかったという。だが、それを押しとどめるように熱海署の幹部から返ってきた言葉は「捜す所がなくなるまで捜します」。
追悼の日、長く長く尾を引くサイレンの中、深く頭を垂れる太田さんの背後に、くる日もくる日も土砂をふるいにかけ続けた警察官の姿が浮かんでくるようだった。
◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)
ジャーナリスト。TBS系「ひるおび!」東海テレビ「NEWS ONE」などに出演中。
■大谷昭宏のフラッシュアップ
元読売新聞記者で、87年に退社後、ジャーナリストとして活動する大谷昭宏氏は、鋭くも柔らかみ、温かみのある切り口、目線で取材を重ねている。日刊スポーツ紙面には、00年10月6日から「NIKKAN熱血サイト」メンバーとして初登場。02年11月6日~03年9月24日まで「大谷昭宏ニッポン社会学」としてコラムを執筆。現在、連載中の本コラムは03年10月7日にスタート。悲惨な事件から、体制への憤りも率直につづり、読者の心をとらえ続けている。
元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【話題・連載・「大谷昭宏のフラッシュアップ」】 2023年07月10日 08:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。