【社説①・03.09】:大震災から14年 複合災害への備え十分か
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.09】:大震災から14年 複合災害への備え十分か
死者と行方不明者が2万2千人を超えた東日本大震災から11日で14年になる。
日本列島は地表を覆うプレートの境目近くにあり、巨大地震や津波、火山活動といった自然災害から逃れられない。将来の被災を最小化するためにも、戦後最大となった災害の経験と教訓を後世に伝えなくてはならない。
■被災から学んだこと
岩手県陸前高田市の高田松原津波復興祈念公園にある伝承施設「いわてTSUNAMIメモリアル」で8日、子ども向けの映画会が始まった。
上映するのは幼児から小学生向けの作品が中心で、震災後に生まれた子どもたちに地震津波災害や防災を学んでもらうのが目的だ。16日までの土日に開かれる。
こうした伝承の取り組みを広げたい。
震災の経験と教訓を後世に伝えようと、国は岩手、宮城、福島の3県と連携し、それぞれに国営追悼・祈念施設の建設を決めた。
陸前高田市、宮城県石巻市の施設と復興祈念公園は2021年春に完成した。福島県の浪江町、双葉町にまたがる施設と復興祈念公園は26年春の完成を目指して建設が進む。
福島県が遅れているのはこの施設整備だけではない。東京電力福島第1原発事故は収束が見通せない。周辺には立ち入り禁止の帰還困難区域が広がり、今も約2万6千人が避難したままだ。原子力災害は現在進行形である。
伝承が課題となっている地震津波被災地に対し、原子力災害被災地が置かれた状況は厳しい。
原発周辺にある被災12市町村の営農再開面積は50%、福島県の沿岸漁業などの水揚げ量は震災前の26%にとどまる。
福島県産の一部農水産品は全国平均より安く売買されている。流通している商品の安全性に問題はない。福島県産品を買い、復興支援の輪を広げたい。
福島原発の廃炉作業は先が見えない。昨年11月に2号機の原子炉内に溶け落ちた溶融核燃料(デブリ)0・7グラムの試験採取に初めて成功した。一歩前進だが、1~3号機にある推計880トンのデブリを取り出し、処分する道筋は描けないままだ。
事故後に策定した工程表は、30~40年後に廃止措置を完了するとなっている。現実的ではない。
原発の廃炉なくして周辺地域の真の復興はない。政府と東電は実現性のある廃炉スケジュールを検討し、公表すべきだ。
■過酷事故を忘れたか
原発で外部に放射性物質をまき散らす過酷事故が起これば、被害は広域、長期に及び、復興はままならない。
震災後、政府が脱原発依存を掲げたのは、福島原発事故を深刻に受け止めたからに違いない。
ところが岸田文雄前政権は脱原発依存から原発活用に政策を百八十度転換し、石破茂政権は先月、原発と再生可能エネルギーを最大限活用する新たなエネルギー基本計画を閣議決定した。
東日本大震災は、地震津波災害と原発事故が重なった原子力複合災害である。その教訓を忘れたかのような行いだ。
原発を再稼働するなら、万が一の際に周辺住民の安全を確保する避難計画が必要だ。
避難計画は原子力規制委員会の審査対象ではない。関係自治体が地域防災計画や避難計画を策定する決まりだが、避難路が自然災害で不通になる場合なども想定しなければ役に立つまい。
昨年1月の能登半島地震では、道路があちこちで寸断され、被災地にたどり着くことさえ困難だった。原発周辺の住民の不安を取り除くには、少なくとも複合災害に備えた防災計画や避難計画を策定しなくてはならない。
昨年8月には南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が出た。巨大地震を含む自然災害はいつ、どこを襲ってもおかしくない。地震、津波、火山噴火に原子力災害が重なる最悪の事態を想定した備えが不可欠だ。
元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月09日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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