【社説①・01.03】:<戦後80年に考える>:北海道経済 前へ 新たな価値生み出せるか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・01.03】:<戦後80年に考える>:北海道経済 前へ 新たな価値生み出せるか
北海道は戦後、石炭や食料の供給地として発展した。
だが国の政策転換で炭鉱閉山と鉄道の廃線が相次ぎ、北洋漁業をはじめ地域を支えた産業が衰えた後は疲弊が目立つ。
近年は「食と観光」に注力し一定の成果を上げてきたが、公共事業頼みから民間主導の経済への転換は道半ばと言わざるを得ない。国の開発予算もピーク時の6割弱に減っている。
そこに「黒船」が現れた。次世代半導体の量産を目指すラピダスの千歳市進出だ。
再生可能エネルギーや脱炭素関連の投資、産業の誘致を目指す、北海道と札幌市の「グリーントランスフォーメーション(GX)金融・資産運用特区」も国に認定された。
北海道経済は戦後80年を経て転換の好機にある。国の政策に左右されないためにも、新たな価値を生み出し、持続可能な成長につなげていきたい。
■専門人材育成が急務
航空機が行き交う新千歳空港近くの空に巨大な屋根の曲線が映える。建設中のラピダスの工場だ。4月の試作ライン稼働、2027年の量産を見込む。
国の支援はこれまで1兆円近くに達する。成功は保証されておらず、その成否は日本経済の行く末にも影響しよう。
道内では1991年にトヨタ自動車北海道が設立され、課題だった製造業の強化に光が差した。2000年代に入り、道や経済界は完成車工場の誘致を図ったものの実現せず、地場企業の参入も限定的だった。
同じ轍(てつ)を踏んではなるまい。ラピダスを中心に道内勢を含む多くの関連企業が集積し、新たなビジネスを生み出す共同体(エコシステム)を形成し、定着させる必要がある。
それには専門人材の継続的な育成が欠かせない。北大はラピダスや東北大と連携協定を結んだ。北大の宝金清博学長は、人材育成に向けたプラットフォームづくりに意気込みを示す。
人材は半導体産業が集積する九州や東北とも争奪戦となる。
道内での活躍の場として、先端半導体とそれを使う人工知能(AI)などの技術を1次産業やサービス業などで活用する方策を探ることが重要だ。
小中学生に技術への関心を持ってもらうなど、将来を見据えた取り組みも求められよう。
■投資呼ぶ環境整備を
社会インフラや機械など官民の投資額を示す道内の総固定資本形成で、公共投資の割合は全国の倍の4割を占める。
民間投資の不足は道内経済の積年の課題だ。GX特区を投資拡大の引き金としたい。
特区の成功には魅力的な投資案件の創出に加え、投資しやすい環境づくりも鍵を握る。
道と札幌市は洋上風力発電などのGX事業を行う企業や投資機関の地方税を免除するほか、海外企業の誘致に向けて相談に英語で応じる窓口を設けた。
特区のライバルは先行する。アジア経済の成長を背景に福岡県と福岡市は12年にスタートアップ(新興企業)支援、20年に産学官で国際金融機関などの誘致を始め、香港の資産運用会社など30社超の誘致を実現した。
他にはない特色をどう打ち出していくか。生かしたいのは、想像以上に高いとされる海外での北海道と札幌の知名度だ。
冬の観光や食のブランドを再構築し、海外関係者にまちの魅力を実感してもらうことを考えたい。投資の果実を道内に還元させる仕組みづくりが重要であることも忘れてはならない。
■高め合う共生社会に
人口減少が続く中、経済の持続性を高めるには働く人の確保が肝要となる。外国人に頼る傾向は一層強まるに違いない。
ホテル棟からスキー場へ向かう客を、日本人と外国人のスタッフが笑顔で見送る。上川管内占冠村の星野リゾートトマムでは、約280人の正社員のうち2割を外国人が占めている。
17年からトマムに在籍し、人事・総務ユニットで働く台湾出身の羅允唯さん(31)は「トマムは規模が大きく、キャリアづくりに生かせる」と話す。
現在約500万人の道内人口は、50年には382万人に減ると推計されている。一方、道内で暮らす外国人は昨年9月末時点で6万人を超えている。
占冠村は人口に占める外国人の割合が昨年11月末時点で31%に達した。これまで大きな問題はないが、ごみの出し方などでトラブルはあるという。
田中正治村長は、村の将来には外国人との共生が不可欠で、それには文化や生活習慣の違いを学び合うことが大切だと指摘する。学校や保育所に外国語に堪能な職員を増やしたいが、財政上難しいという。国や道が支援を検討すべき分野だろう。
道内企業も外国人の技能や職歴を高められる職場づくりに努めなくては、円安も逆風となって選ばれない時代となろう。自治体の意識も問われている。
お互いを尊重し、高め合う共生社会を目指したい。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月03日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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