【社説②】:「軍艦島」遺産 歴史全体語る努力こそ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:「軍艦島」遺産 歴史全体語る努力こそ
国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会が、長崎市の端島(はしま)(通称・軍艦島)を含む文化遺産「明治日本の産業革命遺産」に関する日本の取り組みを認める決議を採択した。
朝鮮半島出身労働者に関する説明が不十分と指摘した2021年の決議から一転した形だが、韓国など関係国との対話の継続も促しており、日本政府は引き続き誠実な対応に努める必要がある。
産業革命遺産が15年に登録される際、韓国が軍艦島の炭鉱などでの朝鮮半島出身者の強制労働を理由に反対したため、日本側は「犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応を取る」と約束した。
日本政府は「産業遺産情報センター」を東京都内に設置したが、朝鮮半島出身労働者への差別的対応はなかったとする元島民の証言を紹介したため、韓国側が反発。ユネスコも21年の決議で日本側の説明に不備があるとして「強い遺憾」を表明していた。
今回の決議は、同センターに犠牲者を追悼するコーナーを設置するなど戦時徴用を巡る展示を充実させた日本側の対応を評価する一方、調査や検証をさらに行い、24年12月までに追加報告するよう求めてもいる。
これは、ユネスコが日本の対応にお墨付きを与えたわけでなく、今後も対応を注視する姿勢を示したことを意味する。
韓国政府は「遺産の全体的な歴史を理解できるよう解説を強化する、という自らの約束を履行するよう期待する」と表明した。
尹錫悦(ユンソンニョル)政権は日韓関係の強化を重視しており表現は控えめだが、負の側面を含む歴史の全体像を提示する取り組みを続けるよう、日本政府に求めている。
日本が来年の遺産登録を目指す「佐渡島(さど)の金山」(新潟)でも韓国側は徴用問題を指摘する。日本側には「日韓の関係改善が進み、影響は限定的」との楽観論もあるが、日本側の対応次第で韓国が態度を硬化させる可能性はある。
自国の歴史観だけに拘泥すれば国際的な理解は得られまい。日本政府には引き続き丁寧な説明と対話継続の努力を求めたい。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年10月02日 07:32:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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