【天風録・11.06】:こうじ菌と日本人
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【天風録・11.06】:こうじ菌と日本人
こんなにも日本人に大切にされるカビはあるまい。かつて、広島市内の酒蔵を取材する前に杜氏(とうじ)から厳命された。数日間は納豆を食べるのを控えて―と。酒造りの鍵を握る、こうじ菌の働きを納豆菌に邪魔させないためだ
▲杜氏自身の制約はもっと厳しく、酒を仕込む冬を「命を削る季節」と熱く語った。彼らもきのう、この一報をさかなに乾杯したに違いない。日本酒や焼酎など、こうじ菌を使う伝統的な酒造りがユネスコの無形文化遺産に登録される見通しとなった
▲古文書をたどると奈良時代に「黴(かび)生(は)えき、すなわち、酒を醸(かも)さしめて」の表現が見える。各土地のコメや水、そして人の情熱と合わさって、あまたの味や香りを生んだことに改めて驚く
▲酒都西条をはじめ日本酒造りが盛んな広島県は「近代焼酎の父」も育んだ。福山市出身の河内(かわち)源一郎だ。明治末に大蔵省技官を務めた鹿児島でこうじ菌研究を重ね、新種を発明。今も国内産焼酎の8割以上で使われる
▲河内はこうじ菌を培養するシャーレを肌身離さず、夜も懐に抱いて眠ったと伝わる。長い歴史と先人の努力を思えば、一滴もおろそかにはできない。日本人である誇りと喜びまで味わえるのだから。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【天風録】 2024年11月06日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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