【社説・12.02】:危険運転の処罰/合理的な線引きの追求を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.02】:危険運転の処罰/合理的な線引きの追求を
悪質な速度超過や飲酒運転による重大事故に厳罰を科す危険運転致死傷罪が創設されたのに、適用が難しい現状は見過ごせない。遺族らの強い要望を受け、要件の在り方を議論していた法務省の有識者検討会が報告書をまとめ、適用拡大を打ち出した。速やかに法制審議会に諮り実効性のある制度改正を目指すべきだ。
同罪は、1999年に女児2人が死亡した東名高速飲酒運転事故などをきっかけに、2001年に新設された。死亡事故の場合、法定刑の上限は通常の過失致死罪の懲役7年に対し、懲役20年となった。
適用の要件は、高速度が「進行の制御が困難」、飲酒は「正常な運転が困難」とするが、数値基準はなくあいまいと言わざるを得ない。
適用の可否が注目を集めたのは21年、大分市の一般道で発生した死亡事故だ。当時19歳の元少年が法定速度の3倍超の時速194キロで交差点に進入し右折中の対向車に激突、男性会社員を死亡させた。
大分地検は当初、「制御困難とはいえない」として過失致死罪で在宅起訴したが、遺族らは「異常な高速運転を過失で処罰するのは不適切」として危険運転の適用を求める署名活動を展開し、地検が訴因変更する異例の経緯をたどった。
28日の大分地裁判決は「常軌を逸した高速度」として危険運転と認め、懲役8年を言い渡した。道路を逸脱しない運転に対し、危険運転を認定するのは前例がないという。一方で求刑の懲役12年を下回る量刑には遺族から不満が漏れた。厳格な適用には要件の明確化が避けられない。
報告書は危険運転について、超過速度や血中アルコール濃度などの基準を設ける方針を示した。具体的な数値は示さなかったが、委員からは「法定速度の1・5倍や2倍」などの意見が上がったという。一律の基準を設けるのは分かりやすいが、危険度は個人差や現場状況で異なる場合もある。議論を尽くし、納得できる線引きを探ってもらいたい。
報告書は、タイヤを滑らせるドリフト走行など「曲芸的な走行行為」も危険運転への追加が考えられると提言した。一方で、スマートフォンを注視する「ながら運転」への適用には慎重な見解を示した。
危険運転と過失の刑罰の差を埋めるために、中間の刑を創設する案もある。検討会は消極的だが、危険運転の合理的な要件設定が難しければ一考に値するのではないか。過失致死傷の法定刑の上限を引き上げる方法も考えられる。
危険運転の適用拡大は、悲惨な事故による犠牲者をなくすためだ。議論を深め、安全運転の意識を高める方策を追求してほしい。
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