【世田谷一家殺害】：今も続く文通ー心に生き続ける親友・にいなちゃん 突然の別れから20年

【世田谷一家殺害】：今も続く文通ー心に生き続ける親友・にいなちゃん　突然の別れから20年

　『漂流する日本の羅針盤を目指して』：【世田谷一家殺害】：今も続く文通ー心に生き続ける親友・にいなちゃん　突然の別れから20年　

　２０００年１２月３０日の東京都世田谷区の宮沢みきおさん＝当時（４４）＝一家４人殺害事件は、間もなく発生から２０年となる。長女で小学２年だったにいなさん＝同（８つ）＝の同級生、野口桃子さん（２８）は、親友と過ごした日々を片時も忘れずに生きてきた。幼心に友情が芽生えてから突然の別れが訪れるまで、わずか１年半。それでも亡き友は２０年の月日を心の中で生き続け、大切な思い出は今も色あせない。　（奥村圭吾）

よく遊んだ公園の周辺で被害者のにいなちゃんとの思い出を話す野口桃子さん。後方は殺害事件現場となった宮沢さん宅

　◆世田谷一家４人殺害事件

　２０００　年１２月３１日、東京都世田谷区上祖師谷３の会社員宮沢みきおさん宅で、宮沢さんと妻泰子さん＝当時（４１）、長女にいなさん＝同（８つ）、長男礼ちゃん＝同（６つ）＝が殺されているのが見つかった。警視庁成城署捜査本部は強盗殺人事件として捜査を続けている。犯行は前日深夜とみられ、現場から犯人の指紋やＤＮＡ型のほか、犯人が食べ残したアイスクリームのカップや脱ぎ捨てたトレーナーなど多くの遺留品が見つかった。犯人はＡ型で身長１７０センチ前後の比較的若い男とみられている。

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◆お別れに読んだ作文

　０１年の元旦、野口さんは静岡県の祖父母宅に帰省していた。「これ、あんたの学校じゃないの」。祖母に言われてテレビを見ると、慣れ親しんだ家や顔写真が映り、母親にしがみついて泣いた。年明けに参列した人生で初めての葬儀では「お空にいっても元気でいてね」と作文を読み上げ、ひつぎに入れて手を合わせた。

　出会ったのは、１９９９年春に入学した区立千歳小学校の教室。人見知りだった野口さんにとって、にいなさんの第一印象は「頭が良くて苦手」だった。その年の秋、にいなさんの母泰子さん＝事件当時（４１）＝が自宅横で開いていた学習塾に通い始めると、距離は縮まった。

◆2人の秘密基地ー公園の思い出

　週２回の塾の前後には、にいなさんと近くの祖師谷公園に出掛けた。「ここは２人の秘密基地ね」「水にキンモクセイを入れて『こうすい』作ろうよ」。今は一緒に遊んだ遊具も小川もない。それでも公園を歩けば、楽しい思い出が次々とよみがえる。

　2000年７月、浴衣姿で写真に納まるにいなちゃん（左）と野口桃子さん（野口さん提供）

　野口さんが生涯を通じて大好きな小説「ハリー・ポッター」（９９年１２月に日本語版発売）も、にいなさんが教えてくれた。分厚い長編を読む姿にあこがれ、母親に同じ本をねだった。続編が出るたびに読み重ね、中学時代には作者の生まれた英国に短期留学するほど熱中し、人生になくてはならないものになった。

◆年1回、文通を続け

　事件直後、母親の勧めもあり、にいなさんへの手紙を宮沢さん一家が大好きだったクッキーや花と一緒に贈り始めた。贈り先は、自分を「桃ちゃん」と孫のようにかわいがってくれた、みきおさんの母節子さん（８９）。以来２０年間、年１回の文通を続けてきた。

　近況を伝える手紙は、エゴを押しつけているだけかもしれないと悩んだ時期もあった。それでも「にいなちゃんとのつながりは絶てない」と自分の気持ちにまっすぐ続けた。事件の話を打ち明けられる友人も多くない中、「自分にとっても、あの日を乗り越えるために必要な所作だったと思う」と振り返る。

よく遊んだ公園の周辺で被害者のにいなちゃんとの思い出を話す野口さん

◆「自分の中の一部」

　野口さんは３年前、薬剤師になった。にいなさんが生きていれば、同じ２８歳。「習っていたピアノやバレエ、英語を生かして芸術か国際的な舞台で活躍していたかな。いい相手を見つけて結婚していたかも」

　大人になり、もっといろんな話がしたかった。そんな願いはかなわないが、２０年がたち「にいなちゃんは自分の中の一部」と感じている。思い出の公園を歩き、あのころと同じ青空を見つめながら。

　元稿：東京新聞社　主要ニュース　社会　【事件・犯罪・東京都世田谷区の宮沢みきおさん＝当時（４４）＝一家４人殺害事件】 ２０２０年１２月２７日 　０５：５５：００ 　これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。