【HUNTER・02.25】:ススキノ殺人で問われた取り調べの実態 | 録音録画と調書に多数の喰い違い
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【HUNTER・02.25】:ススキノ殺人で問われた取り調べの実態 | 録音録画と調書に多数の喰い違い
一昨年7月に札幌・ススキノ地区で起きた殺人・死体損壊事件。昨年から本年にかけて実行犯の両親を被告人とした裁判が進んでおり、報道大手は法廷であきらかになった遺体損壊の様子や当事者の特殊な親子関係などを逐一報じている。一方、事件の捜査をめぐっては逮捕後の両親の長期的な身柄拘束など、いわゆる「人質司法」の問題が浮き彫りとなり、弁護側が鑑定留置理由開示法廷などでその是非を問うてきたところだ(既報)。
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本年に入ってからはこれに加え、供述調書の内容をめぐって弁護側から深刻な指摘がなされることになった。だがその事実は、中央の一部のウェブメディアを除いてほとんど黙殺されている状態。猟奇的な事件の裏に隠れた重要な事実のいくつかを、本稿に記録しておくこととしたい。
2月上旬、実行犯である女性の父親(61)=殺人幇助などで起訴=の公判で、ともに逮捕された母親(62)=死体損壊幇助などで起訴=が弁護側証人として尋問に立った。その主尋問で指摘されたのが、母親への取り調べを記録した映像と供述調書との喰い違い。弁護側が引き合いに出した映像は、父親が逮捕された日の午後に行なわれた母親の聴取を記録したもので、録音・録画データは8時間弱に及ぶ。これに収録された問答の中に、たとえば「エタノールを買ったこと」についてのやり取りがあった。
検察官による尋問では、この時の調書(映像ではなく)をもとに「エタノールは『娘の計画』に必要だったから買った」との供述が確認され、母親自身も「そう答えたかもしれない」と応じていた。ところが調書ならぬ映像には、この重要な発言がまったく記録されていないのだ。映像そのものが法廷で再生されることはなかったものの、弁護側の尋問で再現されたのは「エタノールは何に使うと思ったか」との捜査員の問いに母親が「何かの消毒かしら」と答え、さらに「何の消毒か」と問われて「何の消毒かはとくに聴かなかった」と答えたやり取り。映像にはこれを含めて「エタノール」という名詞が登場する場面が計6カ所あり、そのいずれでも母親は調書に残されたような発言をしていないことが確認された。
こうした喰い違いは1つに留まらず、実行犯による「仕返ししたい」「殺してやる」などの発言を母親が聴いたか聴かなかったか、実行犯の被害者への怒りについて母親が「沸々と増していた」などと発言したか否か、など複数の供述で映像と調書との内容が異なっていた。問題とされる調書は13枚あるが、そのうち印字された部分は約半分の7枚に留まり、映像内にも取調官がその7枚を母親に示す場面が記録されていた。残り6枚は、手書きで訂正が加えられたページだったという。これらの事実が明かされた尋問を目の当たりにした傍聴人の1人は、SNSへの投稿で「法廷にざわめきが…」とその様子を再現したが、地元報道はこれをほとんど伝えていない。筆者の把握する限り、調書と映像との喰い違いを報じたメディアは今のところウェブ媒体のNEWSポストセブン(⇒コチラ)などごく一部に留まる。
指摘された喰い違いについて、2月17日夕に設けられた札幌地方検察庁の定例会見で筆者が質問したところ、飽くまで一般論として「調書はすべて逐語的に文章化しているわけではないので被告人の認識と違ってしまう可能性もある」「言ってもいないことを調書にすることはあってはならない」などの答えが返された。
事件の実行犯である女性(30)は現在、弁護側の求めにより逮捕後2度目の精神鑑定中で、公判期日などは決まっていない。先に逮捕された父親の裁判は2月18日に結審、3月12日午後に一審判決言い渡しを迎えることになっている。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |
元稿:HUNTER 主要ニュース 社会 【事件・犯罪・裁判・一昨年7月に札幌・ススキノ地区で起きた殺人・死体損壊事件】 2025年02月25日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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