《社説①・01.31》:障害者の逸失利益 未来見据え格差正す判決
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・01.31》:障害者の逸失利益 未来見据え格差正す判決
「障害者は健常者と同じようには働けない」との固定観念を取り払う画期的な司法判断だ。
聴覚障害があり、2018年に交通事故で亡くなった井出安優香(あゆか)さん(当時11歳)の「逸失利益」について、健常者と同額とする判決を大阪高裁が出した。
逸失利益は、将来得られたはずの収入のことで、損害賠償額を決める際の重要な要素となる。未成年者は全労働者の平均賃金から算定される。
しかし、障害がある場合は、労働能力に制約があるとして減額する判断が示されてきた。1審判決も平均賃金の85%とするのが妥当だと認定していた。
高裁は、井出さんはコミュニケーション能力が高く、将来働く際の支障は少ないと認めた。その上で重視したのが、近年のデジタル技術の進歩と法整備の進展だ。
人工知能(AI)の活用で補聴器の性能は向上した。音声を文字に変換するアプリが普及し、意思疎通の手段も多様になった。
障害者差別解消法では、障害者が困る状況を改善するための「合理的配慮」が、行政や民間事業者に義務づけられている。障害者雇用促進法は、働きやすい環境づくりを事業者に求める。
必要な措置が講じられた職場で、デジタル技術を活用して周囲と意思疎通し、仕事に励む聴覚障害者は少なくない。
井出さんが就職する頃には、こうした状況になっていることが、事故当時から予想できたと高裁は指摘した。
社会の変化や未来の可能性を見据え、障害の有無による格差を正した判決と言える。
23年の厚生労働省の調査では、雇用されている障害者は約110万人で、5年間で25万人あまり増加した。
一方で国の相談窓口には「事業者から差別的な対応をされた」「配慮を求めたが対応してもらえない」などの声が寄せられている。
障害者が生活する上で困難があるのは、社会の側に障壁が存在するからだ。高裁の判断は、そうした考え方に基づくものである。
障害の有無に関わらず権利が保障される社会をつくるため、「壁」を取り除く努力を不断に進めていかなければならない。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月31日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます