12月1日、浜松市で開かれた集会。無罪が確定したものの、いまだ現実の世界に戻り切れない袴田巌さん(88)が、この日は「こういう勝利の日が最後に来たというのが喜ばしい。事実がやっと実った」と力強くあいさつ。その後、会場の全員で黙とうをささげた。

 元裁判官の木谷明さんが亡くなった。86歳。木谷さんといえば、在任中に30件以上の無罪判決を出し、そのすべてを覆ることなく、確定させたことで知られる。

 いま思えば、9月26日、無罪判決にこぎつけた袴田事件に全霊をささげ、燃え尽きられたような気がしてならない。その日、私が静岡朝日テレビの特番に出ていると知って局を訪ねてくださって、その場でインタビュー。袴田事件の1審で無罪を主張、傷心の中、裁判所を去った司法修習同期生の故・熊本典道判事の思い出。そしてこの日の判決で明らかになった検察の証拠捏造(ねつぞう)とそれを指弾できない裁判官たちの勇気のなさ。

 さらに冤罪(えんざい)事件が多発する中、取り返しのつかない死刑制度を廃止すべきとする木谷さんに、国民の8割が死刑存続を支持しているわが国の現状を問うと、「廃止している欧州の国々も当然、反対が多かったの。それをじっくり説いて廃止にもっていく。これこそが、国のリーダーと司法の役割では」と、いつもの静かで柔らかい声が返ってきた。

 20年にもなる取材で、まさかこれが最後のインタビューになるとは…悔しくて、残念でならない。

 最後の著書となった「違法捜査と冤罪〔第2版〕」のあとがきには、証拠を捏造してまで人を死刑に追い込もうとする検察を「自浄作用のない国家機関」と指弾する一方で、この著書が「違法捜査の絶滅。さらには裁判所の優柔不断な態度の絶滅に少しでも役立つことを祈念する」とある。

 最後の著書となった「違法捜査と冤罪〔第2版〕」のあとがきには、証拠を捏造してまで人を死刑に追い込もうとする検察を「自浄作用のない国家機関」と指弾する一方で、この著書が「違法捜査の絶滅。さらには裁判所の優柔不断な態度の絶滅に少しでも役立つことを祈念する」とある。

 あとがきが書かれた日付は死のわずか40日前。いまは遺言となってしまったこの思いを重く、静かに胸に刻み込んでおきたい。