【社説・11.07】:トランプ氏勝利/「米国第一」の独善を懸念する
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.07】:トランプ氏勝利/「米国第一」の独善を懸念する
米国の民主主義が大きな岐路に立った。超大国はどこへ向かうのか。世界中が身構え、注視する。
接戦が予想された米大統領選は、共和党のトランプ前大統領の返り咲きが確実となった。来年1月に就任する。民主党のハリス副大統領は激戦州で伸びなかった。
孤立主義的で保護主義の色が濃い「自国第一」が猛威を振るえば、国際社会における米国の影響力は大きく後退する。世界が不安定化するリスクは高まるだろう。
トランプ氏は、過激な言動で社会の分断をあおってきた。政敵への「報復」をほのめかしてもいる。独裁者のような振る舞いは断じて許されない。党派対立を超えて「全ての米国人の大統領」となり、世界の平和に指導的役割を果たすべきだ。
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世界各地の紛争から手を引く-。トランプ氏の外交政策を端的に表現すると、こうなろう。
ロシアによる侵攻を受けるウクライナに対して、巨額の軍事支援をやめ、戦争を終わらせると明言している。ゼレンスキー・ウクライナ大統領を「史上最高のセールスマンだ」とやゆしたこともある。
自身を「歴代で最も親イスラエルの大統領」と表現する。当選すればパレスチナ自治区ガザでの戦争など中東の問題を速やかに解決すると述べている。ただし、具体策には触れていない。
■外交戦略練り直しを
驚くべきことに、トランプ氏はプーチン・ロシア大統領や中国の習近平国家主席ら強権的なリーダーへの憧れを隠さない。そうした相手と直接渡り合い、自国の利益のみを追求する「ディール(取引)外交」を推し進める可能性がある。
気候変動への対策にも後ろ向きだ。米国の石油・天然ガス産業を後押しする狙いもあるようだ。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から再び離脱する方針を掲げている。気象の激甚化は差し迫った危機である。再考を強く求める。
選挙戦では、日本への言及はほとんどなかった。安全保障でさらなる負担を求めるのか、どのような通商政策を取るのか、現時点でははっきりしない。だが、内向き志向を強める米国と向き合うには、日本の外交戦略の練り直しが不可欠だ。
米国との関係を基盤としつつ、民主主義や法の支配といった普遍的価値観を共有する国々と連携を深めるべきである。韓国や欧州連合(EU)、オーストラリアなどが視野に入るだろう。米中間の緊張激化は避けられそうにないが、日本は国益を見据え、隣国である中国との戦略的互恵関係を維持し、深化させたい。
■希望をもたらせるか
米国の経済格差はすさまじい。学歴や資産が固定化する「階級社会」になりつつある。とりわけ民主党のオバマ政権下で労働分配率が著しく下がり、中間所得層が崩壊した。大卒未満の白人の状況は特に厳しく、「絶望死」と呼ばれる自殺や薬物中毒死が増えている。
「敗者」として置き去りにされた人々の怒りが、トランプ人気を押し上げたといえる。民主党政権のリベラルな政策に対する保守派の不満も鬱積(うっせき)していた。トランプ氏への支持は、分断の原因ではなく、格差拡大による分断の結果とみることができよう。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月07日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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