【社説・12.15】:災害直後の医療/「支援困難」前提で議論を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.15】:災害直後の医療/「支援困難」前提で議論を
阪神・淡路大震災では家屋倒壊などで6434人が命を落とした。その反省から耐震補強や家具の固定などの対策は一定、進んだが、混乱を極めた医療体制の検証は十分とはいえない。2000年に神戸市が教訓などをまとめた「阪神・淡路大震災神戸復興誌」は千ページを超える大部だが、「医療の供給体制」を扱った節はわずか10ページと全体の約1%にとどまる。
けが人は4万人を超すが、同復興誌によると震災当日の救急搬送は市内で205人に過ぎない。電話の不通や道路事情も影響しただろう。災害直後に地域の医療機関をきちんと機能させるための体制をどう築くか、議論が必要だ。
神戸市によると、同市の災害時医療体制は災害拠点病院を筆頭に、災害対応病院、各区救護所-と3層構造となっている。市は本年度、災害対応病院をようやく全区で指定した。
各病院への人的支援は災害派遣医療チーム(DMAT)が担う。だが兵庫県災害医療センターの中山伸一元センター長は「南海トラフ地震直後は、外部からの人的支援を期待するのは難しい」と話す。甚大な被害が想定される太平洋岸に多く派遣される可能性が高いからだ。元日の能登半島地震のように交通網が寸断されれば、被災地は「陸の孤島」と化し、いっそう支援を受けにくくなる。
神戸市立医療センター中央市民病院の木原康樹院長は、新型コロナウイルス禍の経験も踏まえ「災害で急増する患者に対応するには、平時には無駄に見えるような備えが必要」と説く。だが現在の医療制度では診察や治療の後に診療報酬が支払われるため、一般病院が有事を想定しスタッフや設備を多めに抱え続けるのは現実的でない。
本紙連載「焼け跡のドクター」では、発災後から入院患者の避難と被災者の救命で混乱する民間病院の奮闘をたどった。火災で全員避難を強いられた経験から、災害時に病院を継続使用できるかが重要と院長は話す。
石破政権は防災庁の設置などを掲げるが、災害医療については踏み込んだ考えを示していない。30年前の震災で医師らが身を削って奔走した経験を、国全体で直視せねばならない。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月15日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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