《社説①・11.19》:兵庫知事に斎藤氏再選 出直しは疑惑の解明から
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・11.19》:兵庫知事に斎藤氏再選 出直しは疑惑の解明から
SNS(ネット交流サービス)上を飛び交う情報が有権者の行動を左右した異例の選挙である。
パワーハラスメント疑惑などで兵庫県議会の不信任決議を受け、失職した斎藤元彦・前県知事が再選された。
疑惑は県幹部職員による匿名の内部告発で明るみに出た。
公益通報者保護法は告発を理由とした不利益処分を禁じている。にもかかわらず、斎藤氏は告発者を特定するよう指示し、県は幹部を懲戒処分にした。
県議会調査特別委員会(百条委)では告発を裏付けるような職員の証言が相次いだ。斎藤氏も机をたたいたり付箋を投げたりしたことなどを認めている。
斎藤氏は政党や組織の支援を受けず、出直し選に出馬した。単身で街頭演説する動画がSNSで拡散された。「SNSが一番大事なツールだった」と振り返る。
ネットで広がったのは、「既得権益」を持つ議会や県庁、マスコミに対して改革者・斎藤氏が立ち向かうという構図だ。支持拡大の大きなうねりが生まれ、投票率は前回を14ポイントも上回った。
7月の東京都知事選でも、SNSで既存の政治家を批判した石丸伸二・前広島県安芸高田市長が2位に躍進した。大手メディアを攻撃し、SNSで持論を訴えるトランプ次期米大統領の政治手法にも通じる。
見逃せないのは、今回の知事選で多数の偽情報が出回ったことだ。発信力の強い「インフルエンサー」らが「パワハラ疑惑はでっち上げ」など事実でない情報を拡散した。接戦となった他候補の評判を落とす偽情報も流布された。
誤った情報を信じる人が増えれば、民主主義の基盤である選挙の機能が損なわれかねない。
出回る情報の真偽を確かめるファクトチェックなど、デジタル時代に応じた取り組みの強化が求められる。
告発した幹部は懲戒処分を受けた後に死亡した。自殺とみられている。再選されたからといって疑惑が帳消しになるわけではない。
斎藤氏は疑惑について正面から説明し、県議会は徹底した調査を続けなければならない。それが半年以上にわたって混乱した県政を立て直すための出発点である。
元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月19日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます