【社説①】:ノーベル賞 温暖化研究の先駆者に栄誉
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:ノーベル賞 温暖化研究の先駆者に栄誉
地球温暖化を科学的に予測する先駆的な研究が世界で評価された。栄誉を 称 えたい。
真鍋淑郎・米プリンストン大上席研究員ら3人がノーベル物理学賞に決まった。授賞理由は「地球温暖化を予測する地球気候モデルの開発」だ。日本人のノーベル賞受賞は米国籍の真鍋氏らを含め28人目となる。
東京大で博士課程を修了後、1960年代から米国で活躍した。大気の動きと気温の関係を定めるモデルを開発し、二酸化炭素が2倍に増えると気温が2・3度上昇すると世界で初めて予測した。
今ではスーパーコンピューターを使って気候の変化を予測するのは当たり前となったが、その出発点が真鍋氏の研究だった。先見の明には敬服するほかない。
その後、海洋の動きも加えて地球規模の計算が正確にできるようモデルを改良した。こうした一連の成果は、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書にも取り入れられた。
日本は昨年、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を達成する目標を掲げた。
世界に温暖化の危険性を認識させ、ついには国際社会を動かした影響力の大きさを考えれば、受賞は遅すぎたぐらいである。
ノーベル物理学賞は従来、宇宙や物質の性質に関する授賞がほとんどで、気候変動の分野に光が当たっていなかった。授賞の背景には、地球温暖化に対する世界的な関心の高まりがあるのだろう。
日本では、生理学・医学賞、化学賞も合わせた自然科学3賞で、2000年以降、受賞ラッシュが続いている。ただ、これらは過去の研究による成果が大半で、今後は同様のペースで受賞できないのではないかと懸念されている。
日本では基礎研究の足腰が弱っているためだ。大学の運営費交付金が削られ、若手研究者は不安定な任期付き雇用が増えて、将来像を描けなくなっている。論文の数や質も、米国や中国に比べて地盤沈下が目立つようになった。
最近は、ノーベル賞受賞者が日本の研究環境の悪化を指摘している。真鍋氏も一時日本に帰国していた時期を除き、研究人生の大半を米国で過ごした。日本の硬直的な研究体制になじめない優秀な研究者は多いのではないか。
応用範囲の広い基礎科学を充実させることは、世界における日本の存在感を高めることにつながる。政府には、基礎研究を支援する長期的な戦略が必要だ。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年10月06日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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