《余録・10.09》:「4番目の受賞者は疑いなく線虫です」…
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《余録・10.09》:「4番目の受賞者は疑いなく線虫です」…
「4番目の受賞者は疑いなく線虫です」。2002年のノーベル生理学・医学賞授賞式。2人の科学者と共同受賞したシドニー・ブレンナー博士は記念講演で語り「賞金は分けられませんが……」と聴衆を笑わせた
線虫の発生過程を顕微鏡で観察する研究手法を確立し、2002年のノーベル生理学・医学賞を受賞したシドニー・ブレンナー博士。沖縄科学技術大学院大整備機構の初代理事長を務めた
▲博士が言及したのは「C・エレガンス」の名を持つ線虫の一種。体長1ミリで細長いひも状の生物だ。メッセンジャーRNAを発見した生物学の権威はその発生過程を顕微鏡で観察する研究手法を確立し、分子生物学発展の土台を作った
2024年のノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった米マサチューセッツ大のビクター・アンブロス教授(左)と米ハーバード大のゲイリー・ラプカン教授=米ボストンのマサチューセッツ大で7日、ロイター
▲その後、06年生理学・医学賞、08年化学賞が線虫研究から生まれ、今年の生理学・医学賞も線虫から遺伝情報の一つである「マイクロRNA」を発見した米国の研究者2人に与えられることが決まった
▲回虫や魚に寄生するアニサキスも線虫の一種だが、C・エレガンスは寄生しない。生命科学のために生まれてきたような存在だ。シンプルだが口や神経、生殖腺などを持ち、透明で体内が観察しやすい
▲多細胞生物として初めて全ゲノム(遺伝情報)が解読され、ヒトと共通する遺伝子も多い。寿命は最大で約30日と短く、老化メカニズムの研究も進んでいる。研究成果はヒトの病気治療に直結する
▲「冗談のような生き物が強力な実験システムに変わった」「今後も有益な発見をもたらし続けるだろう」。冒頭の記念講演の予測は見事に的中した。沖縄科学技術大学院大の設立に尽力し、日本とも関係が深かった博士は5年前に亡くなった。だが、線虫の人類への貢献は今後も続くに違いない。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます