まっすぐに伸びる木
『カール・ロジャーズ入門-自分が”自分”になるということ』より-「フォーカシング」
2004年6月25日(金)フォーカシング
- はじめに
私たちは日頃、困ったことや気になること(人)があったとき、そこからなんとか抜け出そうとしていろいろなことをします。どうしてこうなっているのか(原因)、どうしたらいいのか(方法)を自分なりに一生懸命考えます。答えを見つけだそうとして何冊も本を読んで調べたり(知識)、ほかの人に相談してアドバイスをもらったりします。
しかし、”こうだから悪いんだ!”、”こうすべきだんだ”と頭ではわかっても、どうも、どうにもすっきりしない、解決しない、実際は何も変わらないという経験をたくさんしてきているのではないでしょうか。つまり頭ではわかっても、腑に落ちていないのです。
では、腑に落ちるとはどういうことでしょうか?
- フォーカシングとは?
私たちはからだの内面の感じに注意を向けてみることによって、普段見過ごされてしまいそうな、かすかで漠然としているけれども、確かに感じられている”ある感じ”[いのちの働き]に出会うことができます。
この”意味ある豊かな感じ”<フェルトセンス>に触れつづけていくことで、感じにぴったりしたイメージなり、言葉が浮かび「ああっ、そうか」という気づきが起こり、からだが解放されます<フェルトシフト>。このような体験のプロセスが<フォーカシング>なのです。まさに、腑に落ちるのです。その鍵は、自分自身の内なるフェルトセンスにあるのです。
フォーカシングの創始者であるジェンドリンは(心理療法家であり哲学者でもあります)、科学的リサーチによって、「心理療法で成功したクライエントは、ひとつの変化過程の源泉が、問題に対する”からだの感じ”のなかにあることを自分自身で見つけている」ということを明らかにしました。彼は、「人は、過去の出来事によって現在を決定されて生きているのではない」という実存主義に立って臨床研究を続けてきました。
人のからだは常に、過去のすべての体験を含みつつ、未来に対しては、よりその人らしい生の方向性を含みながら、今を生きているのです。
フォーカシングは、ゆっくり、静かに自分自身のフェルトセンスに耳を傾けていくことからはじまります。
- フォーカシングを行う際の留意点
フォーカシングは、知的な操作ではなく、からだに注意を向けて『からだに聴く』プロセスです。そのために、日常の心のありようとは違った注意が必要です。
- リラックスして、ゆったり安心できる場で行う。
- 自分のからだに対して、やさしく親しみをもって問いかける。
- からだに感じられたこと、からだから浮んでくるイメージやことばを、そのまま大切にじっくりと味わう。
- どんなものが出てきても、知識や考えでそれを評価したり、判断したりせずに、素直に受けとる。
- 嫌な、とか、恐いイメージが出てきたとしても、深い呼吸をして、からだをゆるめ、その漢字やイメージに安心な距離をおいて、それに触れ続けてみる。
- 無理せず、自分のペースで行う(リスナーに遠慮しない)。
フォーカシングで出てきたイメージや言葉は、日頃、頭で考えていることと、かけ離れていたり、意味がよくわからなかったりすることがあり、そのまま素直に受け取りにくいことがあります。
しかし、からだは多くのことを知っています。出てきたものは豊かで意味深く、大切なものが含まれているのです。やさしく、素直に受け取っていきましょう。
フォーカシングのプロセスは、限りなく生まれ、つながっていく大小の鎖の輪に喩えられるように、ひとつのステップは次のステップのはじまりです。ひとつのシフト(からだの感じが変わること、からだで納得できる体験、からだのひらけ)が起きたあと、また新たなフェルトセンスを感じるものです。これは次のプロセスがすでに始まっていることなので、安心してその感じに触れていきましょう。
リスナーになる場合は、フォーカサーのプロセスを大事にしながら、自分自身のフェルトセンスに触れ続けます。リラックスして、ゆったりと傍にいること、そしてフォーカサーが感じていることを、自分も感じてみようとしながら、フォーカサーが言葉にした『感じ』を、返していくことで、フォーカサーがその感じをもっとしっかり感じられるように、援助します。フォーカシングは、一人でもできますが、リスナーがいてくれることで、より安心し、集中してからだの感じに触れ続けることができる場合が多いのです。
2004年6月25日(金)フォーカシング資料-リスナーの言葉かけ
リスナーは自分も、からだで言葉を味わいながら、声をかけましょう。
- フォーカシングするテーマを選んでもらう言葉かけ
次の3つの中から、今、一番入りやすいものを選んでください。
- 今のからだの感じは、どんな感じかな?
- このごろの私は、どんな感じで生きているのかな?
- 気にかかっている人、気にかかっている事について、からだはどんな感じかな?
選んだら、知らせてください。
- からだをリラックスさせて、からだの声を聴いていく言葉かけ
軽く目を閉じて、ゆったりと座ってください。深くゆっくり呼吸をしながら、吐く息といっしょにからだの力を抜いていきましょう。
頭、目、頬、首の力を抜いて、肩から腕の力も抜いていきましょう。上半身から力を抜いて、腰は楽にして、足の力も抜きましょう。
今の感じを味わいながら、しばらくその感じに浸ってみましょう。
- 選んだテーマについて、からだの声を聴いてもらう言葉かけ
<フォーカサーが選んだテーマをゆっくり声に出す>自分のからだに静かに問いかけてみて、感じてみましょう。
かすかな、ぼんやりした感じが感じられてきたら、ゆっくり味わって、その中からイメージや言葉が浮かんでくるのを待ってみましょう。
それから、言葉に出してみましょう。
今、からだはどんな感じですか?
リスナーは、フォーカサーの感じを共に味わい、しっかり実感しながら、フォーカサーの歩みを大事にして、ついていきましょう。
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フォーカシングのインストラクション
(体験過程に直接触れていこうとするインストラクション)
①間をつくる
・からだをほどく。
・上半身から力を抜き、ゆったりとして、おなかのあたりは、どっしりとした状態になる。
・静かにゆったりと楽にしてください。
・軽く目を閉じて、ゆっくり深い呼吸をしましょう。
・頭から力を抜いて、静かにゆっくりと、ぼんやりした感じで、暫くそのま まに、いてみましょう。
②内面に向かう
・注意を自分の内面に向け、深いところで自分がどんな感じでいるか、ゆとりをもって感じようとする。
・注意を自分の中に向けてみてください。
例1.「この頃どんな感じで生きているのかなぁ」と問いかけて、浮かんでくるままに、いてみましょう。
例2.「今、どんな感じを、自分の中に感じているのかな」と問いかけて、その感じのままに、いてみましょう。
例3.「何か気にかかっていることがあるかなぁ」とやさしく問いかけて、浮かんでくるままに、いてみましょう。
③フェルトセンス
・何かはっきりしないが、確かに感じているその感じに注意を向け続ける。
・その全体の感じをからだで感じようとする。
・いろいろな感じや、イメージが出てきても、出てくるままに、まかせていましょう。
・漠然とした感じが、自分にひとつにまとまってくるまで、暫くそこに、いてみましょう。
・出てきたある感じを、感じ続けてみましょう。
・その全体の感じは、どんな感じかなー。
・その感じを、暫く味わっていてみましょう。
④その全体の感じにピッタリしたことばが出てくるのを待つ
・そのフェルトセンスから、その感じにピッタリしたことばとかイメージが出てくるのを、全身で感じを味わいながら待つ。
・確信に触れ、その質を捉えようとする。
・「その感じはどんな感じかな」と、じっくり味わいながら、ピッタリしたことばとか、イメージが、からだの中から浮んでくるのを待ってみましょう。
⑤共鳴させる
・出てきたことばとイメージがフェルトセンスにピッタリ合っているか全身で確かめる。
・そのことばとか、イメージが、その感じにピッタリするまで、じっくり味わってみましょう。
⑥フェルトシフト(からだと心が開かれる)
・シフトが起こって、からだと心が開かれる。
・その感じに十分ひたって味わう。
・そのまま、その感じにひたっていましょう。
・それで十分だなぁと思われたら、ゆっくり目をあけましょう。
⑦受け取る
・解放感を伴って出てきたものは、どんなものでも、そのまま素直に受け取る。
・フォーカシングの後、体験を話すことで、更にはっきり受け取ることができる。
・出てきたものは、そのまま「そうだ」と素直に受け取りましょう。