アンダンテのだんだんと日記

ごたごたした生活の中から、ひとつずつ「いいこと」を探して、だんだんと優雅な生活を目指す日記

演奏者の裁量範囲って?

2012年08月01日 | ピアノ
ドビュッシーは、自分の作曲したものに関する、演奏者の「自由」について、こんなことをいっています。

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--- 「ドビュッシーとピアノ曲」マルグリット・ロン著より
あるピアニストが尋ねてきて、彼の作品をひき、ある楽句のところでひく手をやめて、「先生、ここのところは自由にひくべきだと思います」といったというのです。ドビュッシーは怒りをあらわにして
「作曲をする人間もいれば、それを出版する人間もいる。ところが、あいつは自分のしたいことをしているだけのやつだ」
わたしはどんな返答をなさったのかと、聞いてみました。
「いや、なにもいわなかったよ。敷物を見つめていたんだ。あいつには2度と踏ませまいとね」
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…かなり、心が狭いようです(^^;; ラヴェルもその点については同じように考えていたので、このエピソードが好きだったとか。

メリザンドを歌うのに天才的歌手をすすめられたとき、ドビュッシーは「わたしは忠実な歌手であればいいのです」ときっぱり断ったというのだから、重症です。

とはいえ、マルグリット・ロンというのは天才的ピアニストなんだと思うのですが、でもドビュッシーには気に入られて、どっぷり指導をしてもらったわけですから、おそらく、ドビュッシーだって、ただ忠実なだけではなくて、優れたピアニストであって、かつ自分の意図に沿った演奏をしてくれるピアニストを求めていたのでしょうね。

ドビュッシーの作曲家としての名声が確かなものになったころ、ロンもピアニストとして成功していたようですが、いろいろな作曲家の曲を演奏しつつ、ドビュッシーの曲は演奏していなかったそうです。でもそれはドビュッシーの曲が気に入らなかったのではなくて、むしろ逆です。とても心ひかれていて、ドビュッシー自身が弾くとことのほかすばらしいのに、ほかの人が弾くとぜんぜん似ても似つかぬものになってしまうと感じていたのです。

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ある日、ドビュッシーはやにわに尋ねかけてきて
「いったい、あなたはわたしの作品を演奏するのがおいやなのですね」
「それは思い違いというものですわ。わたしはずっとあなたの崇拝者だったのですもの」
さらに、わたしは気がかりなことを率直に、
「むずかしすぎますわ」
「むずかしいって、いや、あなたなら子どもの遊びのようなものですよ」
「楽譜を見たときは、たしかにそうではわ。でも、いざひいてみると…何かを、何かをわたしはとりにがしているのですもの」
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それを聞いたドビュッシーは、ロンに個人的に真剣に教えることを申し出たのです。考えてみればすごいことですが、どっちがどっちに「太っ腹」なのでしょうね…作曲家だって自分の考えを十分に表現してくれる演奏者を求めていますし、演奏者だって作曲家の意図と、それを十分に表現する方法を知りたいのです。この濃密なレッスンは、WIN-WINの関係にあるわけですね。

ロンが、ある大御所的ピアニスト(プランテ)に招かれて共に滞在したとき、プランテはしつこくロンにドビュッシー作品を弾かせては、ドビュッシーがどこで何という指示をしたかを詳しく聞きだそうとしたのです。ドビュッシーとプランテは直に交際があったので、ロンが「お会いになったとき、なぜご自身でお尋ねにならなかったのでしょう」ともっともな質問をすると、プランテがいうには:

「それはね、わたしが、作曲者にどう思っているのか、たずねるようなまねをすると、それにしばられることになるからね」(^^;;

そして、「しばられない彼(?)」はショパンのマズルカを弾きながら「このコーダは1オクターブ高く…ショパンもこのほうを喜んだと思いますよ」などと「自由」なことをやらかしていたようです。

ドビュッシーは、正確性についてことのほかうるさく、テンポについても「メトロノーム!!」と言いまくっていたらしいです。もし正確性というか、作曲者が考えたように弾くということが絶対であるなら、それなら演奏者の個性とかオリジナリティはどこにあるかということになると思いますが、でも実際には、テンポを大幅に崩したり、1オクターブ上げ下げしたり(笑)そんなことをしなくても、弾く人ごとに演奏ははっきり違っていて、まったく別物になりますよね。

と、聞く側としては思うのですが。自分が弾く段になると、技量が低い場合には裁量範囲を広く考えないと、よけいつまんない演奏になっちゃうような気がするんですよね。だって、ノイズが大きすぎて、何をやりたいかわからなくなっちゃうでしょう。テクニックがあれば、ちょっとした変化でも、意図的なものであることに気づいてもらえるでしょうけど。

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コメント (6)
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