その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

マイケル サンデル (著), 鬼澤 忍 (翻訳) 『これからの「正義」の話をしよう』  (ハヤカワ文庫)

2014-09-13 00:16:04 | 


 在英中に「日本で大評判」という聞いていたテレビ番組「ハーバード白熱教室」の書籍化で、本の方もベストセラーということなので、読んでみた。確かに素晴らしい興奮の一冊だった。

 サンデル教授の講義をその場で聞いているような臨場感で、「正義」という大上段のテーマについて考えることができる。サンデル教授が昨今の時事問題を例に取り、識者の主張や古今の哲学者の考え方などを交え、正義について解き明かすのを追体験する、夢中の読書体験だった。

 本書では、正義に対する3つの考え方が示される。ひとつは「正義は効用や福祉の最大化を意味することー最大多数の最大幸福」を意味するという考え方。第二の考え方は、正義は「選択の自由」を意味する。第三の考え方は、正義には美徳と共通善について論理的に考えること。例えば、ハリケーンに襲われたコミュニティにおいて便乗値上げを禁止する法律は、福祉の面から考えれば是(社会全体の福祉の向上に資さない)であるが、自由の観点からは、市場は個人の自由を尊重するという考えに照らして「非」である。そして更に、第三の観点では、福祉や自由以外に道徳的議論として「非」である。こうした、其々の考えの由来、そして現代の諸問題への援用のされ方、そして我々が考えるべきことが示される。

 平易な言葉で語られてはいるが、内容は深く、一読しただけでは真に意味しているところまでは読み取るのは難しい。しかし、そこまでやらないと、血と肉にはならないだろう。何度も読み返したい一冊だ。

 最後の一文も胸に刺さる。「道徳に関与する政治は、回避する政治よりも希望に満ちた理想であるだけではない。正義にかなう社会の実現をより確実にする基盤でもあるのだ。」(p419) 日頃、パワーゲームとしか見ていない政治について、自分も見方を変えなくてはいけない。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする