
年末の第九公演に行かない私には、このデュトワさん指揮・N響によるドビュッシー「ペレアスとメリザンド」(演奏会方式)が今月の目玉公演です。この作品は過去に一度だけバスティーユのパリ・オペラ座で観たことがあります(フィリップ・ジョルダン指揮)が、その時はフランス語公演にフランス語字幕でしたので、美しい音楽と舞台には魅入られましたが、筋・場面が分からずかなり苦しみました。
今回は日本語字幕付きで内容がしっかり分かる上に、素晴らしい歌手陣と繊細なN響の演奏により、オペラ座に引けを取らないハイレベルなパフォーマンスを堪能しました。
主要歌手陣を全て外国人で固めたソリストたちの歌唱が、さすがワールドクラスという感じの素晴らしさ。特にメリザンド役のカレン・ヴルチさんの美しく透明感あるソプラノとゴロー役のヴァンサン・ル・テクシエさんの安定感あり響くバリトンのコントラストが印象的。赤の映えるドレスですらっとしたカレン・ヴルチさんには耳だけでなく目も奪われました。また、イニョルド役のカトゥーナ・ガデリアさんが当たり役。癖がなく、ストレートで美しいソプラノは子供のイニョルドのイメージともぴったり。強いドラマ性というよりは音楽や歌で聞かせるこの作品を、私が最後まで飽きることなくステージへの集中力を保てたのは、実力派の歌手陣によるところが大きいです。
N響の演奏も秀逸でした。デュトワさんの棒について、派手なところはないけどもしっかりと聴かせる音楽でした。私自身、ドビュッシーの音楽に詳しいわけではありませんが、明らかに先月のイタリアプログラムや先々月のドイツものとは違う、色香艶の漂う演奏です。加えて、歌手陣と弦・管のバランスが素晴らしかったことにも感心しました。
オペラグラスから覗いたN響の皆さんの表情はいつもより硬めに見えました。デュトワさんの指示が厳しいのか、初共演の歌手陣とのコラボに気をかけているのか、私には見当が付きませんが、そんな厳しい表情も、良い意味で音楽の緊張感を高めているような気がしました。
意外と客席に空席があったのは意外だったし、勿体ないと思いました。でも、終演後の拍手は割れんばかしの大きなものでしたし、デュトワさんにもエネルギーを使い切った表情の中に満足げな表情が覗いていました。出演者それぞれのプロの仕事を見せてくれた演奏会でした。
※自分の記録用:帰宅後に2012年3月に観劇したパリ・オペラ座公演の出演者を調べてみたら、ペレアス役のステファーヌ・デグー、ゴロー役のヴァンサン・ル・テクシエ、アルケル役のフランツ・ヨーゼフ・ゼーリヒは全く同じ配役で出演してた。
第1796回 定期公演 Aプログラム
2014年12月5日
NHKホール
ドビュッシー/歌劇「ペレアスとメリザンド」(演奏会形式)
指揮:シャルル・デュトワ
ペレアス:ステファーヌ・デグー
ゴロー:ヴァンサン・ル・テクシエ
アルケル:フランツ・ヨーゼフ・ゼーリヒ
イニョルド:カトゥーナ・ガデリア
医師:デーヴィッド・ウィルソン・ジョンソン
メリザンド:カレン・ヴルチ
ジュヌヴィエーヴ:ナタリー・シュトゥッツマン
合唱:東京音楽大学
No.1796 Subscription (Program A)
December 5, 2014
NHK Hall
Debussy / “Pelléas et Mélisande”, drame lyrique(concert style)
Charles Dutoit, conductor
Stéphane Degout, Pelléas
Vincent Le Texier, Golaud
Franz-Josef Selig, Arkel
Khatouna Gadelia, Le petit Yniold
David Wilson-Johnson, Un médecin
Karen Vourc’h, Mélisande
Nathalie Stutzmann, Geneviève
Tokyo College of Music, chorus