代ゼミ講師の筆者が、東大の世界史の入試問題をベースにして世界史を解説した本です。
いや~、とにかく驚きました。「東大の受験生って、こんな難しい世界史の問題を解いているんだ~」と。日本の知識偏重の教育や入試問題が、世界の教育先進国と比べて遅れているというような論調をよく目にしますが、ここに掲載されている入試問題って、質的に世界でもトップレベルにあるんではないか?単に知識があれば解けるわけではなく、歴史全体を俯瞰する力と文章力がないととても解答できない問題ばかりです。
例えば、問題①として挙げられている2001年度の問題。
「輝かしい古代文明を建設したエジプトは、その後も、連綿として5000年の歴史を営んできた。その歴史は、豊かな国土を舞台とするもののであるが、とりわけ近隣や遠方から到来して深い刻印を残した政治勢力と、これに対するエジプト側の主体的な対応との関わりを抜きにしては、語ることができない。
こうした事情に注意を向け、
(1)エジプトに到来した側の関心や、進出にいたった背景
(2)進出をうけたエジプト側がとった政策や行動
の両方の側面を考えながら、エジプトが文明の発祥以来、いかなる歴史的展開をとげてきたかを概観せよ。解答は、解答欄の(イ)を使用して18行(540字)以内とし、下記の語句を必ず一回は用いたうえで、その語句の部分に下線を付せ。
アクティウムの海戦、イスラム教、オスマン帝国、サラディン、ナイル川、ナセル、ナポレオン、ムハンマド・アリー」
古代から現代までを貫く、すごいスケール感ですよね。いいおじさんとなった私にも、知的に面白く、ワクワクする問題です。「東大、東大って、なんぼのもんじゃい」と思っていたのですが、こうした問題群を読んで、「東大って、やっぱり伊達じゃないのね」と納得。
難点は、問題の面白さや質の高さに比較して、筆者の解説の記述は必ずしも分かりやすいとは言えず質的にも高いとは言えないところが散見されるところでしょうか。以前、東大を含めた国公立大学の世界史の入試問題を集めて解説した津野田 興一氏による『やりなおし高校世界史: 考えるための入試問題8問』(ちくま新書)を読みましたが、記述は津野田氏の方が世界史理解により役立つものだったと思います。