その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

橘 玲 『言ってはいけない  酷すぎる真実』 (新潮新書、2016)

2016-06-20 00:01:00 | 


 タイトルが面白そうだったので図書館で借りて読んでみた。人間における遺伝、環境、教育の影響を論じた本。

 刺激的なタイトルや目次見出しほど内容は刺激的でない。筆者独自の調査・研究・論証というよりは、既存の研究結果を筆者の章立てに合わせて、まとめたもの。最近このジャンルの文献からは遠ざかってるが、心理学、教育学、社会学ではしばしば扱われるテーマである。

 目を引いたのは、p214-p215「こころと遺伝・環境の関係」という図表。学業成績などの認知能力、性格、才能、社会的態度などにおける「遺伝」、「共有環境」(家庭での食生活など)、「非共有環境」(友だち環境)の影響度を数値化している。例えば、学業成績は、遺伝が55%、共有環境が17%、非共有環境が29%と、遺伝の影響度が大きい。音楽の才能に至っては、遺伝が92%で非共有環境が8%で、遺伝の影響が殆どだ(ヤルヴィ一家をみればさもありなん)。一方で、自尊感情は遺伝の影響は31%で、非共有環境が69%と、環境要因が大きい。もちろん仮説の域を脱しないだろうし、方法論についてもいろいろ議論を呼びそうだが、なかなか興味深い。個人的には、思いのほか遺伝の影響が大きいのだなと感じたが、子ども個人のがんばり・努力はどう捉えればいいのかなどは、疑問のまま残った。

 「共有環境」の影響はあまり高くないので、親による英才教育はあまり意味がなさそうだが、筆者は「親が無力だ」というのは間違いだという。「親が与える環境(友だち関係)が子どもの人生に決定的な影響を及ぼすのだから」(p241)。この辺りは、私の肌感覚にも合致する。

 打ち出し方、叙述の仕方に癖があるので、内容以前に筆者のスタンスが嫌いな人もいるだろう。ただ、淡々と叙述を追えば、参考になる点は少なくない。



【目次】
1 努力は遺伝に勝てないのか
遺伝にまつわる語られざるタブー
「頭がよくなる」とはどういうことか―知能のタブー
知識社会で勝ち抜く人、最貧困層に堕ちる人
進化がもたらす、残酷なレイプは防げるか
反社会的人間はどのように生まれるか

2 あまりに残酷な「美貌格差」
「見た目」で人生は決まる―容貌のタブー
あまりに残酷な「美貌格差」
男女平等が妨げる「女性の幸福」について
結婚相手選びとセックスにおける残酷な現実
女性はなぜエクスタシーで叫ぶのか?

3 子育てや教育は子どもの成長に関係ない
わたしはどのように「わたし」になるのか
親子の語られざる真実
「遺伝子と環境」が引き起こす残酷な真実
コメント (2)
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