調布音楽祭の公演モーツァルト・ガラ・コンサートに足を運んだ。
プログラムが面白い(演目は本ページ末を参照ください)。1783年にモーツァルトがウイーンのブルク劇場で行ったコンサートのプログラムを再現しているという。指揮の鈴木優人氏(「アマデウス・マーツァルトです」と自己紹介し、笑いを取ってた)によると、アマデウス・モーツァルトが父レオパルト・モーツァルトに送った手紙から明らかになったとのこと。交響曲あり、協奏曲(2曲)あり、ピアノ独奏あり、オペラのアリア(4曲)ありのバライティに富んだ、こんなプログラムが普段のコンサートにもあれば良いのにと思わせる魅力的な内容だ(1回のコンサートではとても予算が合わないのだろうが・・・。)。
その分、時間も長い。休憩2回を含んで、総時間3時間15分。でも、全てモーツァルトの音楽ということもあってか、全く重くないし、もたれることもない。むしろ、目一杯モーツァルトの音楽を楽しませてもらった。
演奏や歌唱のレベルもとっても高いものだった。アンサンブル・ジェネシスという管弦楽団は初めて聞く名前だったので、興味半分、怖さ半分だったのだけど、管楽器は古楽器を使った本格的なのもので、アンサンブルもお見事。「この人たちってどういう人たちなのか?」と不思議に思いプログラムを良くみたら、メンバーのほとんどがバッハ・コレギウム・ジャパンの奏者だった。さもありなんと納得。
ピアノにはフォルテピアノが使われて、その音色が実に高貴かつ軽快。小倉貴久子さんのピアノ協奏曲にはうっとり聞き惚れた。会場が収容500名ほどの中ホールだったので、ピアノの音も良く響く。鈴木さん、小倉さん、森下唯さんのピアノ独奏も満喫。「即興による小さなフーガ」を演奏した鈴木氏によると、「ここだけは楽譜がないのだけど、父あての手紙の中にあった「皇帝がいたので小さなフーガを即興で弾いた」という文章を手掛かりに、「再現」してみるというもの。鈴木氏を通じて当時のモーツァルトを想像するだけでも、ウキウキした気分になる。
独唱陣も私には馴染みのない方だった。が、どの方もしっかりした綺麗なソプラノで、かつ三者三様の違いもあって興味深かった。松井亜希さんは気品と透明感あふれる歌唱で、臼木あいさんはよりドラマティックで力強い。高橋維さんは、丁度その間といったところだろうか。普段は、オケもオペラも最安席で舞台から遠く離れて眺めているのだが、今回は全席同一価格ということで、かなり早くからホール中央の特等席をゲットしていた。そのおかげで、美人揃いの歌手さんが、自分のために歌ってくれているようで、何とも気分が良い。
舞台の後ろには、クリムトが描いたブルク劇場の客席の絵を大きく映し出し、会場の雰囲気を盛り上げる。こうした演出も気が利いている。
企画と演奏・歌唱がしっかりかみ合い、充実した、音楽祭ならではの演奏会。最後には、再びハフナーの第4楽章が演奏され、アンコールまで再現。聴衆は皆大喜びだった。帰り際に、私の後方に座っていたかなりお年を召したお婆様が連れの方に「こんなのが聞けたから、もういつ死んでもええわ」とお仰っているのが聞こえてきた。私も当然、満足感一杯で会場を後にした。
《開演前》
生誕 260 年 モーツァルト・ガラ・コンサート
〜再現1783年ウィーン・ブルク劇場公演〜
日時
6月25日(土)14:00~
(13:30開場・180分公演・休憩2回)
場所
くすのきホール
曲目(W. A. モーツァルト)
交響曲第35番 ニ長調「ハフナー」KV 385
オペラ《イドメネオ》より「今やあなたが私の父」KV 366 ※1
ピアノ協奏曲第13番 ハ長調 KV 415 ※2
《哀れなわたしよ、ここはどこ…あぁ、わたしではない》KV 369 ※1
セレナード ニ長調 KV 320「ポストホルン」
ピアノ協奏曲第5番ニ長調 KV 175 ※3
オペラ《ルーチョ・シッラ》KV 135 から「私はゆく、私は急ぐ」※4
即興による小さなフーガ ※5
ロンドニ長調 K 382 ※6
パイジェッロのオペラ《哲学者気取り》の「めでたし、主よ」による6つの変奏曲 ヘ長調 KV 398 ※2
グルックのオペラ《思いがけない巡り会い》のアリエッタ「人々はうやうやしく」による10の変奏曲 ト長調 KV 455
《我が憧れの希望よ…あぁ、汝は知らずいかなる苦しみの》KV 416 ※7
出演
鈴木優人(指揮)
アンサンブル・ジェネシス(管弦楽)
松井亜希※1、臼木あい※4、鈴木維※7(ソプラノ)
小倉貴久子※2、鈴木優人※5、森下唯※6(フォルテピアノ)