その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

お見事! 蜷川幸雄一周忌追悼公演 「NINAGAWA・マクベス」 @彩の国さいたま芸術劇場

2017-07-24 07:30:00 | ミュージカル、演劇



一度は観たいと思っていた「NINAGAWA・マクベス」の観劇がやっと実現しました。日本を代表する演出家蜷川幸雄氏の一周忌追悼公演です。照り付ける日差しによる暑さが東京以上のさいたま市与野の彩の国さいたま芸術劇場に遠征。席に着いたら、一番端だったけど、何と前から3列目。役者さんの息遣いまでが聞こえるポジションでした。

今まで、オペラ、演劇、映画などいろんな「マクベス」を観てきたけど、「NINAGAWA・マクベス」は、完成度・芸術性ともに間違いなくトップクラスで、感動度も群を抜いていました。

舞台設定を安土桃山時代に置きなおし、日本の武将の物語に仕立ててありましたが、全く不自然さを感じません。それだけマクベスが地域性よりも普遍性を持った物語である所以でしょう。

演出も実に凝ったものでした。舞台は仏壇の仕立てになっており、その中で芝居が展開するというつくり。原作にはない二人の老婆が仏壇の扉を開けて物語が始まります、老婆は終始舞台の上手と下手の端で座り込み、食事をし、編み物をし、時に嘆き悲しむのですが、舞台中央で展開される特別な物語の脇で、ごくごく普通の日常が進行しているという人間社会の二面性を表しているかのようです。

桜吹雪を初めとする舞台装置の美しさや効果的な照明にも息を飲みます。バーナムの森が満開の桜の木々とは驚きました。役者の衣装も歌舞伎風の華やかなもの(魔女の衣装や髪型が昔のNHK人形劇「新八犬伝」の玉梓とそっくりと思っていたら、なんと衣装の担当が辻村寿三郎さんでした)で、固有名詞がカタカナのほかは、どうみても日本の芝居。

これに、フォーレの〈レクイエム〉、ブラームスの〈弦楽六重奏〉、バーバー〈弦楽のためのアダージョ〉の音楽が、ちょっといかにもっぽいところはありますが、実に効果的にかぶさります。

 役者陣はやはりマクベス役の市村正親さんの演技が光ります。決断のマクベス、迷いのマクベス、開き直りのマクベスを夫々うまく演じていました。特に見せ場である第5幕のマクベス夫人の死の報せを聴いて呟く「人生は歩きまわる影法師、あわれな役者だ、・・・・」の部分は特に感動的でした。

 マクベス夫人の田中裕子さんもシュアな演技。野心だけでなく、マクベスへの愛を感じる演技は、私の好みです。マクダフの大石継太さんも良かった。城に残した家族が殺害された知らせを聞いた時のマクダフは感動てきでした。「マクベス」は今年2月にも別の劇団の公演を観ていますが、やはりこれだけのメンバーが揃うと、役者が違うよねと否が応でも感じてしまいます。プロですね。

 この芝居、海外でも絶賛されてきたとか。そりゃそうでしょと思います。ただ、唯一の違和感は、寺の鐘で物語が始まり、読経がバックで流れ、完全な日本物語で展開する「マクベス」の音楽にフォーレの〈レクイエム〉が使われているところでしょうか。何か、和洋折衷、和物も洋物も全部ごっちゃにして、まさに魔女がくべる鍋のように、混ぜ返しているのが本作品とも言えるのでしょうが、こだわる西洋人が観たら相当違和感があるではないかな?

 蜷川幸雄さんのシェイクスピア劇は「シンベリン」を観ていますが、正直「マクベス」の方が断然優れていますね。まさか「マクベス」に涙するとは思いませんでしたが、終盤のマクベスの散り際には、自然と涙が出てきました。

 10月には30年ぶりのロンドン公演とか。これは、ロンドンの日本人の方には是非見てほしいですね。30年ぶりのロンドンでどう評価されるのか興味津々です。




2017年7月17日 13:00開演
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

演出
蜷川幸雄

W.シェイクスピア
翻訳
小田島雄志
出演
市村正親、田中裕子、萬長、大石継太、瑳川哲朗
石井愃一、中村京蔵、青山達三、竪山隼太*、清家栄一、間宮啓行、手塚秀彰
飯田邦博、塚本幸男、神山大和、景山仁美、堀文明、羽子田洋子、加藤弓美子
堀源起* 、周本絵梨香*、手打隆盛* 、秋元龍太朗、市川理矩、白川大*、續木淳平*
鈴木真之介*、髙橋英希* 、後田真欧、五味良介、西村聡、岡本大地、牧純矢**、山﨑光**
*…さいたまネクスト・シアター
**…Wキャスト
主催
公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団/ホリプロ

コメント
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