府中市美術館で開催されている「棟方志功展」に会期最終日の午後にやっと訪れることができた。棟方志功の板画(棟方は自分の「木版画」を「版画」と呼んでいた)をまとめて見る機会は、15年以上前に青森に〈ねぶた祭り〉を観に行った際に、市内の美術館で観て以来である。戦前の中小の板画から戦後の晩年の大型作品に至るまで多種多様な作品が展示される充実の特別展だった。
棟方の個性的な作品は、見るものを強力に引きつける磁力を持っている。作品に描かれた対象と個人的な共通項は無くとも、日本人の心性に根差した懐かしさを感じる。故郷の土であり、日本の八百万の神に触れている気がする。描かれた女性の姿が縄文期の土偶に似た気がするのも、日本人の原始的な感性が現れているようだ。
後半期の展示では、作品はぐっと大型化する。最大級は、2m×13mという<大世界の柵>。大きい絵は近くで見ても良く分からないが、離れてみるとその全体像が良く分かる。ピカソの〈ゲルニカ〉を見た時のような、圧倒的な迫力に押しつぶされそうになった。
実際に使われた絵筆(ブラシ)、彫刻刀が展示してあったがこちらも興味深かった。特に、展示してある作品の元板が感動的だった。彫が驚くほど深く、太い。あの迫力の板画はここから生まれているのだと深く納得した。
ショップに立ち寄ったら、既に図版は売切れ。確かにこの展覧会の図版なら皆欲しくなるだろうと、入手できなかった残念さはあったが、これも納得だった。