先日、4年間の上海駐在から帰任した知人から、「近年の中国における国を挙げてのキャッシュレス社会への移行は凄まじいもので、逆に日本からの出張者や観光客は不便でしょうがない」という話を聞いたが、その中国のキャッシュレス化の光と影を紹介したのが本書である。
あとがきに詳細があるが、筆者は学生時代に中国に留学し、その後日本で社会人になった後、中国の大学院に転身し、当地で経済学博士号を取得し、当地で大学教授の職を得ている。欧米先進国とは異なったクローズドな中国人社会でのサバイバルには、相当な努力と困難があったと容易に想像がつく。本書の記載も、ジャーナリスティックな当世「先進」中国事情のご紹介に止まらない、光と影のバランスの取れた現状報告と分析になっており、信頼度も高い。
詳しい話は本書を読んでいただくとして、今の中国の新経済は、高度成長時代の日本で通産省と産業界がタッグを組んで産業育成に取り組んできたのと同じで、政府の強い政策推進力と民間の盛んな起業家精神が両輪となって、ドライブしているということが良く分かる。それにデジタルテクノロジーの特徴である「スピード」が掛け合わさり、60年代・70年代の日本では考えられなかったスピード感で、変化が加速しているのだろう。本書も事例紹介的な部分については、賞味期限は短いものにならざるをないはずだ。
偶然にも、出張の往路で読んだ「FINANCIAL TIMES」には1ページをまるまる使って、日本のキャッシュレス化の動きと困難が”Curing Japan of its cash addiction”という見出しで紹介してあったが、本書を読むと中国を「追いかける」立場となった日本がこれからどう進んでいくのかに思考が移る。労働力減を最大の社会課題とする日本でも、この1年で遅まきながらキャッシュレス社会に向けて猛烈なスピードでドライブがかかるに違いない。消費者としての自分自身の利便性向上もあるが、私個人としてはそれをどうビジネスで活かしていくかに思いが及んだ(もう遅いかな・・・?)。
《目次》
第1章「中国新経済」の二大プラットフォーマー(決済を制する者が、「中国新経済」を制すスマホの登場が勢力図を変えた)
第2章これが「中国新経済」のエコシステムだ(「買う」―ネットからリアル店舗へ急拡大
「食べる」―拡大するデリバリー・サービス
「移動する」―新サービスの誕生で快適に
「遊ぶ」―広がる余暇の過ごし方)
第3章「中国新経済」はなぜ発展したのか(中国政府が目指すイノベーション駆動型の経済成長イノベーションで社会問題を解決する)
第4章「中国新経済」を支える信用システム(「信用スコア」がもたらす様々な特典社会統治に組み込まれる「新経済」)
第5章「中国新経済」のゆくえ―日本はどう向き合うか
「中国新経済」の影
キャッシュレスのメリットとデメリット
規制される「新経済」
日本の商機をさぐる