怖い小説である。とある女性作家が性犯罪や暴力を肯定的に描いているとの読者からの告発をもとに、政府機関である文化文芸倫理向上委員会(ブンリン)に召喚される。そして、そのまま「収容所」で「更生」のための「療養」が行われる。
「更生」に必死で抵抗する主人公の行方は本書を読んでいただきたいが、オーウエルの「1984」を思い起こさせるディストピア小説である。なので、心躍ったり、気持ちが暖かくなる物語ではない。それでも、怖いもの見たさに、話が進むにつれてページをめくる手は加速度的に速くなった。そして、読後の後味も気持ちの良いとはとても言えない。
スターリン時代のソ連はまさにこうだっただろうし(「更生」すらなくそのまま銃殺刑だったようだが)、今の時代においても反政府的な人物、言動に対して近しい統制が行われている国はある。日本でもここで描かれる世界を単なる虚構として片づけてはいけないだろう。ゴールデンウイークに読む本としては重かったが、「思想の自由」、「表現の自由」について考えるきっかけとなる一冊だ。