新国立劇場のフルオーディション企画は「かもめ」と「反応工程」を観劇してきたが、いずれも印象に残る舞台だった。今回は新国立劇場として4つめのフルオーディション企画の公演。企画に魅かれて、中身も良く分かってないまま劇場を訪れた。
ストーリーはとてもユニーク。とある島の住民たちの言葉にはそれぞれ固有の色がついていて、それが空を舞いあがり漂う。誰が何を発言したかが住民たちに共有されるので、隠し事はできない。ある日、島の丘に刑務所が設置され、島外から囚人と看守がやって来るが、なぜかそこだけは言葉に色がつかない。島民たちは囚人を訪れて胸の内を明かす。そんな村人の思いを囚人が代弁して公開したことで、事件が起こっていく・・・。特異な状況を設定したブラックコメディだ。
匿名性ある言葉(囚人と話すときの無色透明の言葉)と匿名性のない言葉(色がついて全ての島民に公開される言葉)が対比されるが、そこに優劣はついていない。また、匿名性のない世界においても誹謗中傷の対象となりうるナラという登場人物の存在も意味深である。
正直言うと、なかなか難しい作品だと感じた。一度見ただけでは、作・演出を手掛けた倉持裕さんの意図をどこまで読み取れたかは、甚だ自信ない。匿名性が幅を利かせる日本のネット世界において、言葉の暴力が社会問題化しているだけに、現代社会のテーマとして考える価値は大きいと思うのだが、それがシャープに訴求出来ていたかというと疑問符がついた(私だけかな?)。例えば、後半の囚人に対する憎悪、看守の官僚的行動などなど、色んな解釈が可能で、それこそこの作品の狙ったとこかもしれないのだが、腹落ち感がもう一つ。
囚人役の箱田暁史さんの飄々とした演技が好感度高い。物語のシリヤスさ、ブラックさを和ませて、柔らかく不思議な舞台の雰囲気を作っていた。看守役伊藤正之さんとのコンビもユーモラス。その他のオーディションで選ばれた役者さんたちも熱量高かった。
2時間10分、休憩なし。時間を忘れるほど舞台から目が離せなかったが、観劇後には微妙な不完全燃焼感が残った。
2021年11月11日~28日
スタッフ
【作・演出】倉持 裕
【美術】中根聡子
【照明】杉本公亮
【映像】横山 翼
【音響】高塩 顕
【音楽】田中 馨
【衣裳】太田雅公
【ヘアメイク】川端富生
【振付】小野寺修二
【演出助手】川名幸宏
【舞台監督】橋本加奈子
キャスト
伊藤正之、東風万智子、高木 稟、永岡 佑、永田 凜、西ノ園達大、箱田暁史、福原稚菜、山崎清介、山下容莉枝