2月、3月で3本のシェイクピア劇(1つは翻案ものですが)を見るという幸運に恵まれました。夫々個性豊かで質の高い公演でしたが、今回の「ハムレット」は、個性あふれるベテラン・若手役者陣の競演、かつ和洋折衷テイストが楽しめる、特に素晴らしいものでした。個人的にはここ数年のシェイクスピア観劇の中でも有数の公演です。
まず、役者さん達が素晴らしい。題名役の野村裕基さん(萬斎の実子)は初舞台と言うことで、構成・演出・出演する萬斎パパの「コネ」配役ではないかと多少の不安がありました。多少のせりふ回しの硬さは感じられましたが、流石、狂言役者です。佇まいが美しく、動きに無駄がないです。若さ一杯の演技も貴公子ハムレットに相応しい。「コネ」などと私が思ったのもおかしな話で、世襲制の日本の古典芸能の世界ではあって当たり前の世界なのですね。演技に不満があるならまだしも、むしろ初舞台に相応しい気持ちの入った演技が爽快で楽しませてもらいました。
若手で言うと、オフィーリアを演じた藤間爽子さんも印象的でした。NHKの朝ドラにも出演経験があるようなのですが、芸能界に疎い私はお名前からして全くの初めて。蒼井優さんと黒木華さんのイメージを併せ持ったような印象の方で、この方の佇まいもオーラが漂っていました。演技もオフィーリアの可憐さ、純真さがよく表れていて、素晴らしいと感嘆しました。公演後に知ったのですが、なんとこの若さで日本舞踊の家元さんでもあるのですね。ファンになりそうです。
ハムレットの無二の親友ホレイシオ役の釆澤靖起、オーフェリアの兄アーティーズ役の岡本圭人も存在感がしっかり印象に残る演技っぷりでした。
そして、舞台全体を低い重心で安定させるベテラン陣もお見事でした。ハムレットの敵である叔父クロ―ディアスと父の二役を演じた野村萬斎さん、母ガートルードを演じる若村真由美さんの夫婦は貫禄たっぷり。更に、オファーリアの父で宰相ポローニアスと墓堀り役の村田雄浩さんなどは味は流石です。
更に、「地球座」の座長役として河原崎國太郎さんが演じる劇中劇の場面は、歌舞伎と文楽が併せ持ったようなスタイルで目が離せませんでした。オペラの中にバレエが差し込まれるフランスもののグランドオペラのよう。
野村萬斎氏の演出も美しく、効果的でした。宇宙的な広がりや視点を感じさせる舞台装置や、舞台を二段にして空間を最大限に活用するなど、膨らみが出て効果的です。ハムレット父の能面を被った落ち武者のような風体の亡霊、女性陣の東アジア的な衣装、劇中劇やせりふ回しに時折感じる歌舞伎や文楽などの要素などから和テイストも感じます。和洋折衷の舞台は違和感どころか、「ハムレット」のユニバーサル性・グローバル性を感じさせるものです。
18時半に始まって、終演が22時を回る(途中20分休憩あり)でしたが、全く長さを感じない強烈な磁力を持った公演でした。世田谷パブリックシアターの大ホールは初めてでしたが、(うろ覚えですが)シェイクスピアの故郷ストラットフォード・アポン・エイボンのグローブ座につくりが似てる感じがいいですね。最近訪れた埼玉会館や神奈川芸術劇場と比べてもこじんまりとしていて、舞台と観衆の距離が非常に近いのも集中力が途切れなかった一因だったと思います。
2023年3月6日~3月19日
世田谷パブリックシアター
スタッフ/キャスト
【作】W.シェイクスピア
【翻訳】河合祥一郎
【構成・演出】野村萬斎
【出演】
野村裕基/岡本圭人/藤間爽子
釆澤靖起 松浦海之介 森永友基 月崎晴夫
神保良介 浦野真介 遠山悠介
村田雄浩/河原崎國太郎/若村麻由美/野村萬斎
【美術】松井るみ
【照明】北澤真
【音楽】藤原道山
【音響】尾崎弘征
【衣裳】半田悦子
【ヘアメイク】川口博史
【アクション】渥美博
【演出助手】日置浩輔
【舞台監督】澁谷壽久
【技術監督】熊谷明人
【プロダクションマネージャー】勝康隆
【制作】若山宏太
【プロデューサー】浅田聡子
【世田谷パブリックシアター芸術監督】白井晃