ヤクルトを2年連続でリーグ優勝に導いた高津臣吾監督による野球、リーダーシップ、育成についてのエッセイ。就任2年目からしっかり結果を出している高津監督の手腕は感心しているとこであるし、クローサー高津の試合を神宮球場でいくつも観てきた昔のヤクルトファンとしても読みたい本であった。
主に2021年シーズンを振り返りながら、現場ならではの心情や悩みが綴られている。ペナントを懸けて戦うヤクルトの舞台裏の様子が伺えて面白いのと同時に、リーダーシップ論としても日々の仕事の参考になるところが多々あった。
新鮮な驚きは、高津監督が恩師ともいえる故・野村監督の影響を強く受けていることを知ったこと。野村監督を契機にヤクルトファンになった私としては、個人的に嬉しいと思うと同時に、後進の指導者を育てたという観点で野村監督の育成力・影響力に改めて感服する。高津がリップサービスで故野村監督を敬愛していると言っているわけではないことは、本書を通じた彼の野球や指導者としての向き合い方からも十二分に伝わってきて、教育・育成という「仕事」の奥深さ、重要性を見る思いだ。
監督としての高津さんの基本姿勢で特になるほどと思ったのは3点。一つは、決断は(たとえ間違っていたとしても)早く伝えることの大切さ。これにより部下や周囲は、安心して前を向いて仕事に打ち込める。私自身は、正しい判断をしようとして、情報を集め、判断の時間をかける傾向があることを自覚しているので、(他のリーダーも言っている事ではあるが)早い決断の重要性を改めて認識させられた。
2つ目は、リーダーの言葉の持つ力、重要性を大切にしているのもさすがと思う。ここも自分自身が至らないところで、余計な一言や浅はかな発言をしがちな自分には良い教訓である。そして、3つ目が選手を信じること。信頼と我慢はリーダーの器量が問われるところである。昨日、WBCを制した栗山監督にも通じるところだと思う。会社では早い結果を優先させがちな自分には耳の痛い警句だ。
これ以外にも、常に「様々の想定とシュミレーション」の必要性、若い選手に「経験」を積ませる(一軍現場で自分の目で「敵」、「仲間」を見て、「空気」を吸うこと)の重要性、「連敗期・停滞期」を打破するのは新しい力、なども腹落ち感高い視点だ。久しぶりに「野村本」を読んでいるようで、嬉し懐かしささえ感じる新刊であった。