筆者の高橋俊介さんは、20年以上前に私が人事の仕事をしていた時から今に至るまで、その著作や勉強会等で様々な学びを頂いた方である。経営と人事が一体的に動く必要があるという、今でこそ当たり前のことを早くから主張されていた。分析やアドバイスは、実務とアカデミックなアプローチが程よくブレンドされていて、とっても納得感が高く、私が仕事を進めるうえでも大きな影響を受けたHRMのプロの一人である。
本書は氏が、変化の激しい現代にプロフェッショナルな職業人として生きていくために、「独学」の大切さ、その実践方法について述べたもの。
筆者は、「独学力」を「学びの主体性」として定義し、学びのWhy、What、Howを深めていくことの重要性を説く。そして、「仕事」と「キャリア」の自律性に加えて、「学び」の自律性を身に着けることが、「変化」の時代に対応していくために必要なことだと言う。昨今、「リスキリング」がバズワードとして目につくところであるが、受け身のリスキリングは社員の負担になるだけであり、主体的な学びことが大事だというのだ。
字にしてまとめてしまうと、目新しさや面白味なく感じられるかもしれないが、本書では、具体的な「学び」を「仕事」「キャリア」に結び付けているいくつかの事例紹介が詳しく記載されており、単なるノウハウだけでなく、深みを伴って「独学」の大切さが身に染みて理解できる。
個々のアドバイスは既知のところもあるが、私としてのなるほどポイントを列挙すると・・・
・正解のない問題に対する力をつけるための学びには、縦の師弟関係ではなく、ヨコ型の仲間どおしの専門性コミュニティが大切
・中高年にはメタ認知の重要性を説き、自分の認知のゆがみに気づくことが、先入観を取り除き、学びに大切(→どっきり)
・何を学ぶのかという観点から、「時流に乗る」よりも「時流を作る」と言う観点でテーマ選び、同様に「人と似たようなテーマ」よりも「人と違うテーマ」を選ぶ
・顧客の半歩先に行ってガイドするような学びを目指すことで、対等なパートナーとして認められる
・応用力につながる普遍性の高い学びが大切で、そのための材料として「リベラルアーツ」(この「リベラルアーツ」には、定義的にはつっくみどころはあると思うが・・・)を学ぶことが良い
最終章における、独学の実践のための筆者の50のアドバイスは、素晴らしいチェックリストでもある。が、このアドバイスの実践は実際は難易度高い。タイミング、タイミングで見返して、自分の定点チェックに使いたい。
個人的に最も有用だったのは、「独学力を高めるリベラルアーツ」を学ぶための巻末の読書案内39冊(書籍以外もあるが)。既読の書籍も多く含まれていた(今年読んだ『チョンキンマンションのボスは知っている』が入っていたのは驚きだった)が、いずれも古典として扱われるものではなく、新書レベルで取っ組みやすいが中身がしっかりしている本が中心なのが嬉しい。
ブックガイドとしてもお勧めです。
目次
【第1章】「仕事」と「学び」を根本から変える5つの大変化──いま起きている変化と問題の本質
【第2章】目指すは「キャリア」「仕事」「学び」
【第3章】独学力を高めるとは、どういうことか
【第4章】一流の独学者の事例に学ぶ独学の作法と意味
【第5章】自分自身の「専門性コンピタンシー」を強化せよ
【第6章】リベラルアーツを学ぶ意味と基本的な作法──リベラルアーツは、独学と世界観の出発点
【第7章】独学を実践するためのヒント──個人は独学をどう進めればいいのか
【特別付録】独学力を高めるリベラルアーツのための読書案内