その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

来る大統領選の参考図書に最適:渡辺靖『アメリカとは何か 自画像と世界観をめぐる相剋』(岩波新書、2022)

2023-12-27 08:33:24 | 

2022年の米国中間選挙にあたって、アフタートランプの状況理解のために購入したが、積読状態になっていた。来年の大統領選挙も近づいてきたこともあり、引っ張り出して読んでみた。現在の米国政治状況について理論的かつ事例も含めて、非常に分かりやすく記述されている。

トランプ大統領誕生以来、私の理解の範囲を超えているアメリカの分断。バイデン大統領に代わって、やっと悪夢は去ったのかと思いきや、再びトランプの復帰も十分あり得るのが今の状況だ。一体、米国はどうなってしまったのか?どうなって行くのか?

本書はその米国の政治状況を理論的にはノーランチャートのフレームワーク(米国の政治的イデオロギーを整理する際によく用いられる座標図)を使い、政治学者など専門家の分析等も含めて、具体的に説明してくれるので、頭の整理に最適だ。将来的な、楽観シナリオ、悲観シナリオについても触れている。トランプ現象は当初私が感じていたような一時的な現象では無くて、現在の米国社会が抱える構造的な課題が背景にあるということがわかる。

私にとって衝撃だったのは、2021年の国会議事堂襲撃事件について、ABCニュースの世論調査では「民主党支持者の96%が「民主主義への脅威」と捉える一方で、共和党支持者では45%であり、52%では「民主主義の防守」と前向きな評価をしている」(pp152-153)という。同じ事象でも全く別のものに見えている。

最終章の「アフター・ナショナリズム」の視座も興味深かった。政治学者サミュエル・ゴールドマンの著書を引用し、「米国は常に分断状況にあり、単一のアイデンティティを拒んできたとし、第2次大戦前後の国民的結束はあくまで例外であり、現在はむしろ「歴史的な平均値」に戻りつつあるという」と紹介する。あくまでも一つの見方ではあるが、自分の米国像の立ち位置にも気づかされる。

いずれにせよ、米国の問題は米国だけに留まらない。米国が望むと望まざると、日本はもちろんのこと、世界に大きな影響を与える。冷静にその行方を見つめたい。

来る米国大統領選挙に関心のある方には、強くお勧めできる1冊。

 

【目次】

はしがき――「ノースカロライナ州カリタックのPM」の不満
第1章 自画像をめぐる攻防
 1 米国という実験
 2 米国流「リベラル」の誕生
 3 米国流「保守」の逆襲
 4 オバマとトランプをつなぐもの
 5 ペイリオコンと右派ポピュリズム
 6 民主社会主義と左派ポピュリズム
 7 異彩を放つリバタリアン
 8 トライバリズムの時代
第2章 ラディカル・アメリカ
 1 コロナ禍の政治学
 2 先鋭化する陰謀論
 3 BLM運動をめぐる攻防
 4 キャンセル文化とウォーク文化
 5 過激化する対立
 6 人種をめぐる駆け引き
第3章 米国モデル再考
 1 米国例外主義
 2 古典的帝国としての米国
 3 ダブルスタンダードと反米主義
 4 リベラル国際秩序
 5 権威主義国家による挑戦
 6 リベラル疲れ
第4章 分裂する世界認識
 1 パラレルワールド
 2 権威主義が見る世界
 3 民主社会主義が見る世界
 4 リバタリアンが見る世界
 5 リトレンチメント論争
 6 漂流する共和党
 7 中国問題
 8 アフガン撤退の意味
第5章 分断社会の行く末
 1 強まる遠心力
 2 楽観的シナリオ
 3 反動と障壁
 4 悲観的シナリオ
 5 アフター・ナショナリズム
 6 新たなリスク
 7 デジタル・レーニン主義
 8 問われるメタ・ソフトパワー

あとがき
索 引

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