その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

岡本隆司『中国史とつなげて学ぶ日本全史』東洋経済新報社、2021

2023-12-14 07:30:02 | 

古代から近現代までの日本史を中国との関係で鷲つかみする一冊。書き下ろし形式のエッセイ風の文章なので、大雑把な議論ではあるものの読み易い。

古代から日本が中国の影響を深く受けて来たことは周知だが、改めて日本の歴史を中国・東アジアとの関係の中で概観することで、日本国や日本人の特徴や日中の複雑な関係が理解できる。

古代~平安時代は中国のコピーの時代。そして平安~鎌倉はアジアシステムから離脱し、土着化・土俗化や政治体制の多元化(朝廷と幕府)が起こる。室町~戦国になると、中国や欧州の変革の影響も受けながら、日本の社会構造が大きく変化(地方の経済的独立、生活の拠点が山間部から平野部へ移行、支配体制の入れ替わり等)し、「日本全体の身体の入れ替わり」が起こる。江戸前期(開幕~元禄・享保)時代には都市化や「鎖国」により国家意識が明確に芽生えてくる。享保~開国前夜は、享保の脱中国化が進み、「鎖国」が本格化し、国学が編み出され日本が「凝集」していくという。本格的に日本・日本人のアイデンティティが模索される時期だ。

本書の後半、近代以降は記述もより詳細になる。ねじれた日中関係は入り組んでいて複雑だが、記述も好奇心を刺激される。

例えば、辛亥革命という近代中国を大きく転換させた歴史的事件があったが、本件には明治維新を経験した日本が強い影響を与えていた。

「もともとネーション・ステート(国民国家)」というものに縁のなかった、別個のシステムだった大陸や半島に、国民国家のシステムやノウハウが日本から持ち込まれたことが、今日まで続く構図の原点です。・・・日本という存在があったがために、今日の中国の体制はある。」(pp.248-250)

日中関係史というと、とかく日本が中国から受けた影響が中心となりがちだが、片方向ではなく双方向の関係性をより認識できる。

また、日本の特徴を「凝集」、「一体化」に見出し、それをアジア・太平洋戦争など日本の対外進出の破綻要因としているのも納得だ。

「日本と中国の根本的な違いとして、(官と民が)凝集した日本と官民乖離の中国」がある(p.176)

「日本という存在に特別の価値をもたせ、それを押し付けることでしかアジア各国と渡り合うことができなかった。その尊大な姿勢が、必然的に「皇国」をも「大日本帝国」をも破局に導いたのでしょう。・・・根本的なアイデンティティ、それに基づくアジア各国との接し方に破綻の根源があったことは間違いありません」 (pp.232-233)

教科書的な出来事中心の歴史とは違った視点で、テーマをもって振り返ることで、普段知っているつもりになっていたことがより立体的に見えてくる。勉強になりました。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする