その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

映画 「ノマドランド」(監督クロエ・ジャオ、2020年)

2024-09-11 07:28:19 | 映画

「移動は人類の本能である」という話を聞いたことがある。アフリカで誕生したホモ・サピエンスは移動に移動を重ねて南アメリカ大陸まで到達したし、日本を含め古今東西の世界を見渡しても移動する人類はいつもどこかに存在している。

「ノマドランド」は現代米国でのノマド(意味は遊牧民)であり、老齢期に入る女性ファーンを描いた映画。今どきのITを駆使して、場所を問わず自由に働くノマド・ワーカーとは正反対で、自家用車のヴァンで移動し、必要最低限の仕事(クリスマス商戦でのアマゾン配送センターでの時季アルバイトや町の食堂のキッチン担当など)で移動生活の糧を得る生活だ。

移動を通じて、宇宙や自然への畏怖・共生、人との相互援助・共感に触れつつ、最後は自分次第という個の自立の精神を貫く。ドキュメンタリータッチなロードムービーの趣がある。

主演のフランシス・マクドーマンドが強い個を持った女性を好演。台詞よりも表情、仕草でファーンの生き様を表現する。ネバダ、アリゾナと言ったアメリカの広大な砂漠、荒野を舞台にスケール大きく美しい映像も印象的だ。このスケール感は映画館で観てこそと思われ、ロードショウの際に劇場に見に行かなかったことが今更のように悔やまれる。

ファーンは、もとはネバダのエンパイアという田舎町(実在の町らしい)で、夫を病気で失いながらも、夫との想い出とともにエンパイアに定住を選んだはずだった。「移動」を通じて、ファーンは価値観・自己を拡げて成長する。

「コスパ」、「安心・安全」、「健康」などの現代社会の価値観の中では説明できない生き方であるし、個人的にも真似をしたいとは思わない。それでも、ファーンの生き方に魅かれるのは、私の中にも人類の本能が隠れているということなのだろうか。

"See you down the road!" (また(どこかで)会おう!) 味わい深い映画である。 

(2024年8月30日 Amazon Primeにて視聴)

 

監督
クロエ・ジャオ
製作
フランシス・マクドーマンド ピーター・スピアーズ モリー・アッシャー ダン・ジャンビー クロエ・ジャオ
原作
ジェシカ・ブルーダー
脚本
クロエ・ジャオ
撮影
ジョシュア・ジェームズ・リチャーズ
美術
ジョシュア・ジェームズ・リチャーズ
編集
クロエ・ジャオ
音楽
ルドビコ・エイナウディ

CAST
ファーン:フランシス・マクドーマンド
デイブ:デビッド・ストラザーン
リンダ:リンダ・メイ
スワンキー:スワンキー
ボブ:ボブ・ウェルズ


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« はじめてBリーグのゲームを観... | トップ | 春風亭昇太・桂宮地「二人会... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。