Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

「大工ヨセフ」再説

2009年03月02日 | 美術
 昨晩ルーヴル美術館展のブログをアップして、一夜明けた今朝、ふっと気がついたことがあるので、再度ラ・トゥールの「大工ヨセフ」について。

 ※作品は「ルーヴル美術館展」のホームページの中の「作品解説」↓でご覧になれます。
  http://www.ntv.co.jp/louvre/topics/cat380/

 まず、もう一度この絵を振り返ってみると、
 夜の仕事場で大工ヨセフが錐で角材に穴を穿っている。その手元を少年イエスのもつ蝋燭が照らす。角材は将来イエスがかけられる十字架を暗示する。額と額がくっつきそうになるほど近寄った2人、深い皺を刻んだヨセフは、無垢な少年イエスをみつめる。その眼には、悲しみをこらえて、少年の宿命をみつめる父性愛がにじむ。
 ざっというと、こういう絵であった。私は、ヨセフの仕事着に穴が一つあいていることに気がついて、発見の喜びをもった。

 今朝になって、ハッとした、あの穴は聖痕の暗喩だったのではないか・・・。聖痕、イエスが磔刑になったときについた、両手、両足、脇腹の傷のことで、きわめて信仰の篤い人には同じ傷が現われるという。アッシジの聖フランチェスコがもっとも有名な例で、図像も多い。ただ、私の知るかぎりでは、ヨセフに聖痕が現れるという話は聞いたことがなく、図像を見たこともない。むしろ、あの穴は、角材と同じように、イエスの受難を暗示するディテールの一部だと思ったほうがいい。でも、かなり特異な図像だ。

 別な面でも、この作品はかなり特異だ。ヨセフが登場する図像は、イエスの生誕、聖家族、エジプトへの逃避行などが主で、聖母マリアのいない父(養父)と息子の2人だけという図像は珍しい。
 また、父性愛をあつかった作例も、あまり思い出せない。ラ・トゥールの生きたころのロレーヌ地方はヨセフ信仰が盛んだったというから、この作品が生み出された背景はたしかにあったと想像できるのだが、当時の作品で父性愛と結びついた図像はあったのだろうか。

 2005年開催のラ・トゥール展に来ていたので、ご存知の方も多いだろうが、ラ・トゥールには「聖ヨセフの夢」という作品がある。夜、机の前でまどろんでいるヨセフのもとに天使が現れ、マリアの孕んでいる子は神の子であることを告げる。忘れがたい作品だが、これはイエスの誕生前であって、父性愛は感じられない。

 そのほかにも、もうひとつ、昨日のブログでふれた縦長のかまぼこ型の構図は、聖堂内の祭壇を暗示するのだろうと、これもまた今日になって気がついた。
コメント
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