新国立劇場オペラ研修所公演の「カルメル会修道女の対話」をみた。これは20世紀のフランスの作曲家プーランクのオペラ。20世紀には意外に多くの優れたオペラが生み出されているが、これもそのひとつだ。
フランス革命の真っただ中のパリ。内気で怖がり屋のブランシュは、魂の平安を求めて、あるいは、自らの臆病さを克服するために、カルメル会修道院に入る決心をする。パリから離れたコンピエーニュの修道院。しかし革命の嵐はここにも押し寄せ、破壊と略奪の末、修道女たちは捕らえられ、パリで処刑される。
このオペラは革命に翻弄される修道女たちの群像劇だ。人並みはずれて繊細なブランシュ、その親友で神への信頼を失わないコンスタンス、病床にあって錯乱する前修道院長クロワッシー、修道女たちを守ろうとする新修道院長リドワーヌ、殉教を主張するが最後になって逃げるマリー、苛酷な運命を受け入れる年老いたジャンヌ。
死を前にしたこれらのさまざまな反応は、死とは何か、信仰とは何か、人間とは何か、革命とは何かを問いかける。
オペラ研修所の公演なので、歌手の皆さんは音楽大学を出て、今は第一線に立つための研修を重ねている方々だ。声は出るし、音程も正確だ。フランス語の発音も不自然さがない。あえていえば、もっとパワーがほしいが、それは今後の課題だ。その代わりに、アンサンブルの緊張感があった。これは時間をかけて準備した成果だろう。
オーケストラは東京ニューシティ管弦楽団。プーランクの音楽としては、さらなる透明感がほしいが、それは今の時点では、ないものねだりかもしれない。
私は、演出、美術、照明にも感心した。ロベール・フォルチューヌの演出は登場人物の性格を描き分けていたし、クリストフ・ヴァローの美術は、舞台をひとつの様式美にまで高めていたし、八木麻紀の照明はそのための重要な役割を担っていた。
指揮はジェローム・カルタンバック。フランス語の発音を音楽に乗せるうえで、この人の指導力は大きかったにちがいない。
この公演では、筋を追うにしたがって悲劇性を帯びてくるこのオペラの、その悲劇性への収斂が実現されていた。実力のあるプロの歌手が集まって、短期間で作り上げてしまう舞台では、かならずしもこれと同じくらいの緊張感があるとはかぎらない。
私は、オペラ研修所公演では、2007年3月のブリテン作曲のオペラ「アルバート・ヘリング」もみたが、そのとき、これはブリテンの世界になっていると思った。それと同じように、今回の公演は、プーランクの世界になっていた。
(2009.03.12.新国立劇場中劇場)
フランス革命の真っただ中のパリ。内気で怖がり屋のブランシュは、魂の平安を求めて、あるいは、自らの臆病さを克服するために、カルメル会修道院に入る決心をする。パリから離れたコンピエーニュの修道院。しかし革命の嵐はここにも押し寄せ、破壊と略奪の末、修道女たちは捕らえられ、パリで処刑される。
このオペラは革命に翻弄される修道女たちの群像劇だ。人並みはずれて繊細なブランシュ、その親友で神への信頼を失わないコンスタンス、病床にあって錯乱する前修道院長クロワッシー、修道女たちを守ろうとする新修道院長リドワーヌ、殉教を主張するが最後になって逃げるマリー、苛酷な運命を受け入れる年老いたジャンヌ。
死を前にしたこれらのさまざまな反応は、死とは何か、信仰とは何か、人間とは何か、革命とは何かを問いかける。
オペラ研修所の公演なので、歌手の皆さんは音楽大学を出て、今は第一線に立つための研修を重ねている方々だ。声は出るし、音程も正確だ。フランス語の発音も不自然さがない。あえていえば、もっとパワーがほしいが、それは今後の課題だ。その代わりに、アンサンブルの緊張感があった。これは時間をかけて準備した成果だろう。
オーケストラは東京ニューシティ管弦楽団。プーランクの音楽としては、さらなる透明感がほしいが、それは今の時点では、ないものねだりかもしれない。
私は、演出、美術、照明にも感心した。ロベール・フォルチューヌの演出は登場人物の性格を描き分けていたし、クリストフ・ヴァローの美術は、舞台をひとつの様式美にまで高めていたし、八木麻紀の照明はそのための重要な役割を担っていた。
指揮はジェローム・カルタンバック。フランス語の発音を音楽に乗せるうえで、この人の指導力は大きかったにちがいない。
この公演では、筋を追うにしたがって悲劇性を帯びてくるこのオペラの、その悲劇性への収斂が実現されていた。実力のあるプロの歌手が集まって、短期間で作り上げてしまう舞台では、かならずしもこれと同じくらいの緊張感があるとはかぎらない。
私は、オペラ研修所公演では、2007年3月のブリテン作曲のオペラ「アルバート・ヘリング」もみたが、そのとき、これはブリテンの世界になっていると思った。それと同じように、今回の公演は、プーランクの世界になっていた。
(2009.03.12.新国立劇場中劇場)