読売日響の11月定期は名誉指揮者ロジェストヴェンスキーの指揮で次のようなオール・シュニトケ・プロ。これはロジェストヴェンスキーならではの企画だ。
(1)シュニトケ:リヴァプールのために
(2)シュニトケ:ヴァイオリン協奏曲第4番(ヴァイオリン:サーシャ・ロジェストヴェンスキー)
(3)シュニトケ:オラトリオ「長崎」(メゾ・ソプラノ:坂本朱、合唱:新国立劇場合唱団)
「リヴァプールのために」は1994年、シュニトケが亡くなる4年前の作品。イギリスのロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニック協会からの委嘱で作曲され、翌年に同オーケストラによって初演されたとのこと。
トゥッティでファンファーレのような音型が奏され、それを金管が引き継ぐ。ところが次にくるのがチューバの長いソロ――これがどうみても壮麗なファンファーレの調子ではない。その後も盛り上がらない音楽が続き、ついにはキッチュなワルツが出てくる。最後には壊滅的な不協和音の一撃。
これは人を喰ったようなファンファーレのパロディー、あるいは解体の音楽だ。
ヴァイオリン協奏曲第4番は1984年の作品。第1楽章はチューブラーベルとプリペアド・ピアノによる鐘の音の模倣ではじまり、木管楽器によるコラール風の主題が出る。ときどき鋭い不協和音がはさみ込まれる。切れ目なしに無窮動的なソロ・ヴァイオリンの動きがはじまって第2楽章となる。激しい動きが最高潮にたっした後、急速に脱力して第3楽章になる。チェンバロの伴奏をともなうソロ・ヴァイオリンのバロック風の旋律。ここまでは緩―急―緩と来たので、第4楽章は急の音楽かと思っていると、さらに遅い深く沈潜した音楽になる。
この曲はシュニトケの「多様式主義」が洗練をきわめ、簡潔な書法に到達したことを感じさせる作品。20世紀後半のヴァイオリン協奏曲の名作だと思う。演奏はとくに第4楽章でソロ・ヴァイオリン、オーケストラともに集中力があった。
アンコールにはバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番からジーグが弾かれた。
オラトリオ「長崎」は1958年の作品、モスクワ音楽院の卒業制作だそうだ。当時は放送用に録音され、反米プロパガンダとして日本に向けて放送されたが、その後は忘れられていたらしい。2006年に再発見されて南アフリカで公開初演され、今年8月にはロンドンでゲルギエフ指揮のロンドン交響楽団によって演奏されたとのこと。
全5楽章からなり、原爆投下の悲劇をうたった作品。第1楽章の冒頭では、(日本流にいえば)大河ドラマのテーマ音楽のようなものが朗々と鳴り渡るので驚く。全体的にはプロコフィエフの「アレクサンドル・ネフスキー」を下敷きにしていることが感じられ、シュニトケの生涯という文脈に置いてみると興味深い。
今年の秋は、オペラでは「ヴォツェック」、演劇では「ヘンリー六世」、そしてコンサートではこの演奏会と、大きな収穫があった。
(2009.11.30.サントリーホール)
(1)シュニトケ:リヴァプールのために
(2)シュニトケ:ヴァイオリン協奏曲第4番(ヴァイオリン:サーシャ・ロジェストヴェンスキー)
(3)シュニトケ:オラトリオ「長崎」(メゾ・ソプラノ:坂本朱、合唱:新国立劇場合唱団)
「リヴァプールのために」は1994年、シュニトケが亡くなる4年前の作品。イギリスのロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニック協会からの委嘱で作曲され、翌年に同オーケストラによって初演されたとのこと。
トゥッティでファンファーレのような音型が奏され、それを金管が引き継ぐ。ところが次にくるのがチューバの長いソロ――これがどうみても壮麗なファンファーレの調子ではない。その後も盛り上がらない音楽が続き、ついにはキッチュなワルツが出てくる。最後には壊滅的な不協和音の一撃。
これは人を喰ったようなファンファーレのパロディー、あるいは解体の音楽だ。
ヴァイオリン協奏曲第4番は1984年の作品。第1楽章はチューブラーベルとプリペアド・ピアノによる鐘の音の模倣ではじまり、木管楽器によるコラール風の主題が出る。ときどき鋭い不協和音がはさみ込まれる。切れ目なしに無窮動的なソロ・ヴァイオリンの動きがはじまって第2楽章となる。激しい動きが最高潮にたっした後、急速に脱力して第3楽章になる。チェンバロの伴奏をともなうソロ・ヴァイオリンのバロック風の旋律。ここまでは緩―急―緩と来たので、第4楽章は急の音楽かと思っていると、さらに遅い深く沈潜した音楽になる。
この曲はシュニトケの「多様式主義」が洗練をきわめ、簡潔な書法に到達したことを感じさせる作品。20世紀後半のヴァイオリン協奏曲の名作だと思う。演奏はとくに第4楽章でソロ・ヴァイオリン、オーケストラともに集中力があった。
アンコールにはバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番からジーグが弾かれた。
オラトリオ「長崎」は1958年の作品、モスクワ音楽院の卒業制作だそうだ。当時は放送用に録音され、反米プロパガンダとして日本に向けて放送されたが、その後は忘れられていたらしい。2006年に再発見されて南アフリカで公開初演され、今年8月にはロンドンでゲルギエフ指揮のロンドン交響楽団によって演奏されたとのこと。
全5楽章からなり、原爆投下の悲劇をうたった作品。第1楽章の冒頭では、(日本流にいえば)大河ドラマのテーマ音楽のようなものが朗々と鳴り渡るので驚く。全体的にはプロコフィエフの「アレクサンドル・ネフスキー」を下敷きにしていることが感じられ、シュニトケの生涯という文脈に置いてみると興味深い。
今年の秋は、オペラでは「ヴォツェック」、演劇では「ヘンリー六世」、そしてコンサートではこの演奏会と、大きな収穫があった。
(2009.11.30.サントリーホール)