Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

アーサー王

2010年03月01日 | 音楽
 チリ大地震の影響による津波警報のため、昨日は首都圏の交通機関もかなり乱れた。私はヘンリー・パーセルのセミ・オペラ「アーサー王」をみるために横浜に行ったが、15:00開演予定のこのオペラも30分遅れた。
 遠く海を隔てたチリで起きた地震による津波が、約一日かけて日本にも届く――地球は一つだとあらためて思った。かけがえのない地球という言葉が、妙に実感として感じられた。

 この公演は神奈川県立音楽堂主催の「音楽堂バロック・オペラ」の一環。同音楽堂は2006年にはヴィヴァルディのオペラ「バヤゼット」を上演して、バロック・オペラの楽しさを堪能させてくれた(このときはファビオ・ビオンディ指揮エウローパ・ガランテの演奏だった)。

 今回はエルヴェ・ニケ指揮ル・コンセール・スピリテュエルの演奏。気鋭のフランスの古楽団体だが、私ははじめて。なるほど、粗野な音も辞さずに、活気あふれる演奏をする。
 私は今までこの曲をガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツの演奏できいてきた(1983年の録音)。その演奏が格調の高い正統的なものだったとすれば(「正統的」という言葉がふさわしいかどうかは別として、古楽復興の歩みの中では、正統的と感じられた)、今回の演奏は今を生きる人間の活力みなぎる演奏だった。

 このオペラはセミ・オペラと呼ばれているが、その意味するところは、これが演劇主体であって、そこに音楽やダンスがつくということ。イタリアで生まれたオペラがヨーロッパ各地に広まっていくなかで派生した一形態だ。できることなら大詩人ジョン・ドライデンの筆になる演劇をふくめてみてみたいと思うが、演出家の伊藤隆浩さんのプレトークによれば、5時間くらいかかるとのこと。

 今回の公演は音楽だけを取り出したものなので、所要時間は1時間半ほど。音楽は話の筋とは関係なくつけられているので(観客を飽きさせない?ために、スペクタクルとして効果的な場面につけられている)、これだけでは話の筋は追えない。そこで演出家の出番になる。今回の演出は音楽の場面設定を簡単につたえるためのものだった。これは仕方がないと思う。ベースとなる演劇部分を上演するゆとりがないわけだし、それよりもなによりも、おそらく低予算で、リハーサルの時間も限られていたと思われるので。

 気になったのは、演出家自身この作品を鑑賞または勉強している印象があったこと。たとえば妖精のいる森の場面で、これはなにかに似ていると自問自答し、ヴェルディのオペラ「ファルスタッフ」に行きつくところなど、素直すぎて困ってしまった。
(2010.2.28.神奈川県立音楽堂)
コメント (2)
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