Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラ・フォル・ジュルネ

2010年05月05日 | 音楽
 ラ・フォル・ジュルネの最終日。当初は曲目未定だった時間帯にリストの「十字架への道」が入ってきたときには、ほんとうに驚いた。リストの晩年は、私がいつも気になりながら、まともに向き合ってはこなかった領域。その中でも秘曲のようなイメージだったこの曲が演奏されるとは――。

 この曲は、イエスが死を宣告されて、ゴルゴタの丘まで歩み、処刑され、埋葬されるまでを14の場面で描いたもの。カトリック教会では各場面を描いた壁画などを順にめぐる儀式があるそうだ。聖職者でもあったリストは各場面を音楽化した――それがこの曲。混声合唱とピアノという編成。各場面はきわめて短い。
 生できいてよくわかったが、この曲はコラージュ音楽だ。ピアノはすでに無調の世界に入っていて(といっても、第2次ウィーン楽派のそれよりは、メシアンの音楽に近い)、そこに合唱がグレゴリア聖歌的な音楽、あるいはバッハのコラール的な音楽を並置する。どこか時代を突き抜けたところのある曲。
 演奏はピアノがブリジット・エンゲラー、合唱がジャン=クロード・ファゼル指揮ローザンヌ声楽アンサンブル。がっちり構築された演奏で申し分ない。

 もうこれだけで十分に満足したが、夜までのつなぎにショパン研究家の小坂裕子さんの講演「ショパンが愛したサンドの魅力」へ。サンドには男装の麗人といったイメージしかなかったので、一歩踏み込んで理解するよい機会になった。

 次はアコ―ディオン三重奏のモーション・トリオ。これは驚くべき演奏だった。ショパンの前奏曲やノクターン、ワルツなどを編曲し、合間にオリジナル曲が挟まる。編曲はあるときは電子音楽風に変形され、それがいつの間にかノスタルジックな手風琴の調べになり、そこにまた電子音楽風の音が介入してくるといった具合。あるいはミニマル・ミュージック風の音楽が果てしなく続くかと思うと、いつの間にか劇的に変容したりする。エンターテイメントにはちがいないが、それだけでは収まらない現代性が感じられた。

 民俗音楽グループのゼスポール・ポルスキも素晴らしかった。ショパンのマズルカなどを編曲し、合間にポーランド民謡が挟まる。その民謡が、あるときは胸をかきむしるような哀感をたたえ、またあるときは熱い情熱を迸らせる。音楽祭にこのようなワールド・ミュージック的な視点が持ち込まれるのは嬉しい。アンコールにはチベットのホーミー的な唱法も出てきて驚いた。

 最後は6人のピアニストによるリスト、ツェルニー、ショパンなど6人の作曲家が編曲した「ヘクサメロン変奏曲」。舞台に6台のピアノが並ぶだけでも壮観だが、その6台がピタッと合ってパッセージを受け渡すさまは爽快だ。小曽根真さんがソロをとる部分ではジャズ風の即興も。聴衆はスタンディング・オベーション。
(2010.5.4.東京国際フォーラム)
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