Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カンブルラン/読響

2011年11月26日 | 音楽
 カンブルラン/読響の「海」にちなんだプログラム。選曲、その配列、ともに入念に検討されたものだ。たぶんカンブルランの頭のなかには、とっておきのプログラムがいくつもあって、これもその一つなのだろう。

 1曲目はメンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」。ソット・ヴォーチェで始まり、カンブルランらしい引き締まったフォルテや、テンポの追い上げもあるが、基調としてはソット・ヴォーチェで貫かれた演奏。新たなメロディーが入ってくるときの一瞬の間合いの絶妙さ。それがこの演奏の繊細さの象徴だった。

 2曲目はショーソンの「愛と海の詩」。これが当夜の白眉だった。オーケストラはショーソンの流動的な色彩を表現し、メゾ・ソプラノの林美智子がそこにドラマティックな歌唱を織り込んだ。全体的にオーケストラ伴奏付きの歌曲というよりも、オペラの長大な一場面を聴いている感じがした。

 この曲の第1部「水辺の花」と第3部「愛の死」は、ともに明るい愛の喜びで始まり、やがて暗い破局で終わるが、林美智子の歌唱は、愛の喜びの開放感よりも、破局の喪失感のほうに深みがあった。中間の第2部はオーケストラによる短い間奏曲。これも破局を予告する哀切な演奏だった。

 読響のHPに載っているエピソードだが、林さんはこの公演のためにパリに行って、信頼するコレペティートルに見てもらったそうだ。そのときのいきさつが面白い。と同時に、演奏家というものがどれほど勉強家であるかもよくわかった。

 将来この曲を生で聴く機会がいつあるかわからないが、その機会が訪れたときには、きっとこの演奏を思い出して、これを基準に聴くことになるだろうと思った。

 3曲目はワーグナーの歌劇「さまよえるオランダ人」序曲。カンブルランのワーグナーは初めてだ。全体に遅めのテンポをとり、パルスのいくつもの層が重なったような感じがユニークだった。端的にいって、これは情念が渦巻く演奏ではないが、わたしはこういう演奏も面白かった。

 最後はドビュッシーの交響詩「海」。この演奏を聴きながら、カンブルランは、あえていえば、往年の名指揮者アンセルメのタイプではないかと思った。ピッチの厳密さ、リズムの正確さ、色彩の豊かさ、明快なアーティキュレイション、シャープな造形、べたつかないフレージング等々。カンブルランはさらに加えてオペラも振れる強みがある。
(2011.11.25.サントリーホール)
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