Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カールスルーエ:村のロメオとジュリエット

2012年02月08日 | 音楽
 フランクフルトに到着した後、カールスルーエに移動した。車窓からは真っ赤な夕日が森の向こうに沈むところが見えた。旅情をかきたてられる景色だった。翌日は、日中は美術館に行き、夜はディーリアスの「村のロメオとジュリエット」を観た。ディーリアスの代表作の一つだが、意外に生の舞台を観る機会は少ない。今年はディーリアスの生誕150年に当たるので、その記念公演だ。指揮は音楽監督のジャスティン・ブラウン、演出はアリラ・ジーゲルト。

 驚いたことには、これはドイツ語上演だった。最初はちょっと面食らった。でも、不思議なことに、すぐ馴れた。ドイツ語が音楽とかみ合っていた。率直にいって、ドイツ語で歌われると、ワーグナーのように聴こえた。この作品のオーケストラは3管編成プラスアルファ―の大きさだ。それがたゆたうような音楽を奏でる。声楽も、蔓が延びていくような曲線を描く。しかもブラウンの指揮が、情熱を込めた、こってりした演奏だったので、たとえば「トリスタンとイゾルデ」のように聴こえた次第だ。

 それにしても、なぜドイツ語だったのだろう。馴染みのないオペラなので地元の人にわかりやすく、ということは考えにくい。なぜならドイツ語の字幕が投影されていたからだ。字幕を投影するなら英語でもよいわけだ。しかもドイツ人には英語を話せる人が多い。この劇場では今シーズン、ベルリオーズの「トロイ人」やヤナーチェクの「カーチャ・カバノヴァ」を上演しているが、それぞれフランス語、チェコ語だ(ドイツ語の字幕付き)。

 考えてみると、ディーリアスはイギリス生まれとはいっても、両親はドイツ人だ。しかも若いころにアメリカに渡り、20代後半でフランスに移ってからは、ずっとフランスで過ごした。あまりイギリスにこだわった生涯ではない。

 本作の原作はスイスの作家ゴットフリート・ケラーの小説だ(日本でも岩波文庫で出ていた)。舞台はアルプスの寒村。言葉はドイツ語だ。ディーリアスも当然ドイツ語で読んでいた。英語の台本はディーリアス自身と妻ジェルカが作成したが、あまり評判がよくなかった。没後も手直しが試みられている。出版社(ブージー・アンド・ホークス)からは英語とドイツ語の両方の版が出ている。

 今回ドイツ語で聴いてみると、なるほどドイツ人はディーリアスをこう感じるのかとわかった気がする。それはディーリアスの伝道者ビーチャムのスタイルとは一味ちがう濃厚なものだった。

 歌手は、知っている名前はなかったが、みなさん熱演だった。
(2012.2.1.バーデン州立歌劇場)
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