翌日はドレスデンに移動して、ベルクの「ルル」を観た。これはコペンハーゲン王立歌劇場との共同制作だ。コペンハーゲンではすでに2010年に初演されている。ドレスデンではこの日が初演。
最大の関心事は第3幕がエバーハルト・クローケEberhard Klokeによる補筆版であることだ。例のフリードリッヒ・ツェルハの補筆版の初演が1979年だったから、30年あまりたった今、新たな補筆版が出たわけだ。第3幕は未完とはいえ、ベルク自身の台本はもちろん、パルティチェル(簡易スコア)が残されているわけだから、新たな補筆といっても、どこまでできるのか半信半疑だった。
で、どうだったのか。これが面白かった! とくにパリを舞台にした第1場での3つのアンサンブルのうち、2つ目と3つ目が。2つ目のアンサンブルでは、各人各様に勝手なことを喋っているが、その騒然としたなかで、ルルとゲシュヴィッツ伯爵令嬢との会話が始まると、これが明瞭に浮かび上がった。まるで他の登場人物たちが、一瞬、沈黙したようだった。アッと息をのんだ。なにが起きたのか――。
3つ目のアンサンブルでは、オーケストラがそれまでのアンサンブルにくらべて音価を短縮して、高速回転のフィルムのように動いた。その動きを断ち切るように、シゴルヒによって殺害される侯爵の叫び声が聴こえた。音楽がピタッと止まった。その直後に、オーケストラなしで(ア・カペラで)、登場人物たちが猛烈な勢いで喋り始めた。腰が抜ける思いだった。
その他、ベルクが使わなかったアコーディオンが使われていることも特徴的だった。
演出はシュテファン・ヘアハイム。バイロイトの「パルジファル」で凝りに凝った演出にふれた経験があるが、今回はすっきりした演出だった。場所は場末の見世物小屋。ルルは見世物の世界の住人だ。そこに現実の世界の住人(ルルの求愛者たち)が介入する。命を落とした男たちは、ピエロになって、見世物の世界の住人になる。だがシェーン博士の死とともに現実の世界が消滅する。それに伴い見世物の世界も崩壊する。
コルネリウス・マイスターが指揮するドレスデン・シュターツカペレの演奏は極上だった。これはもういつまででも聴いていたかった。「ルル」の音楽とはどのような音楽であるか、やっとわかった気がする。軽い浮遊感がけっして損なわれることのない音楽だ。ルルを歌ったのはGisela Stille。この人も軽い浮遊感を失わない歌唱だった。ルルの恐さはこの軽さにあることに気付いた。
(2012.2.4.ドレスデン国立歌劇場)
追記
出版社(ウニフェルザール)のホームページによると、クローケ補筆版は指揮者および演出家に構成上の余地を残した版らしい。
最大の関心事は第3幕がエバーハルト・クローケEberhard Klokeによる補筆版であることだ。例のフリードリッヒ・ツェルハの補筆版の初演が1979年だったから、30年あまりたった今、新たな補筆版が出たわけだ。第3幕は未完とはいえ、ベルク自身の台本はもちろん、パルティチェル(簡易スコア)が残されているわけだから、新たな補筆といっても、どこまでできるのか半信半疑だった。
で、どうだったのか。これが面白かった! とくにパリを舞台にした第1場での3つのアンサンブルのうち、2つ目と3つ目が。2つ目のアンサンブルでは、各人各様に勝手なことを喋っているが、その騒然としたなかで、ルルとゲシュヴィッツ伯爵令嬢との会話が始まると、これが明瞭に浮かび上がった。まるで他の登場人物たちが、一瞬、沈黙したようだった。アッと息をのんだ。なにが起きたのか――。
3つ目のアンサンブルでは、オーケストラがそれまでのアンサンブルにくらべて音価を短縮して、高速回転のフィルムのように動いた。その動きを断ち切るように、シゴルヒによって殺害される侯爵の叫び声が聴こえた。音楽がピタッと止まった。その直後に、オーケストラなしで(ア・カペラで)、登場人物たちが猛烈な勢いで喋り始めた。腰が抜ける思いだった。
その他、ベルクが使わなかったアコーディオンが使われていることも特徴的だった。
演出はシュテファン・ヘアハイム。バイロイトの「パルジファル」で凝りに凝った演出にふれた経験があるが、今回はすっきりした演出だった。場所は場末の見世物小屋。ルルは見世物の世界の住人だ。そこに現実の世界の住人(ルルの求愛者たち)が介入する。命を落とした男たちは、ピエロになって、見世物の世界の住人になる。だがシェーン博士の死とともに現実の世界が消滅する。それに伴い見世物の世界も崩壊する。
コルネリウス・マイスターが指揮するドレスデン・シュターツカペレの演奏は極上だった。これはもういつまででも聴いていたかった。「ルル」の音楽とはどのような音楽であるか、やっとわかった気がする。軽い浮遊感がけっして損なわれることのない音楽だ。ルルを歌ったのはGisela Stille。この人も軽い浮遊感を失わない歌唱だった。ルルの恐さはこの軽さにあることに気付いた。
(2012.2.4.ドレスデン国立歌劇場)
追記
出版社(ウニフェルザール)のホームページによると、クローケ補筆版は指揮者および演出家に構成上の余地を残した版らしい。