Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

良い子にご褒美

2013年09月11日 | 音楽
 サントリー芸術財団サマーフェスティバル2013の最終公演「良い子にご褒美」。台本はトム・ストッパード、音楽はアンドレ・プレヴィン。

 冷戦下のソ連が舞台。政治犯アレクサンドルが精神病院に収容されている。体制に異を唱える男は精神病者というわけだ。精神病院には本物の患者も収容されている。イワーノフというその男は頭のなかにオーケストラがある。自分はそのトライアングル奏者だ。

 舞台はソ連だが、今の日本にも当てはまる話だと思った。わたしたちの周りでも、所属する組織(たとえば会社)あるいは実力者に異を唱えると、「変わった奴だ」とか「頭がおかしい」とかいわれたりしないだろうか。ひどい場合には「人格障害だ」とかなんとか――。残念ながらわたしの前職ではそういうことがあった。

 なので、今の日本のような感覚でこの芝居を観た。アフタートークでシリアやチェチェンの紛争のことが出たが、もっと身近な話のように感じた。

 最後の大佐による「解決」は、たしかにいろいろな解釈が可能だろう。アフタートークでは、大佐はわかった上で、あの解決をしたのであって、それはアレクサンドルの息子サーシャを悲しませないための配慮ではないか、という意見が出された。わたしはそうは思わなかった。大佐もまた狂っていて、偶然の結果、唯一正気な人間であるアレクサンドルが救われたのではないかと思った。

 多様な解釈の余地があるという点に面白さがあるわけだ。作者のトム・ストッパードとはどういう人かと思った。プロフィールによると、映画「恋におちたシェイクスピア」の脚本を書いた人だ。あっ、そうなのかと思った。その映画なら覚えている。才気煥発、ものすごく面白い映画だった。

 プレヴィンの音楽も面白かった。アフタートークでも触れられたが、明らかにショスタコーヴィチを意識している箇所や、プロコフィエフを意識している箇所があった。しかも全体としてはプレヴィンらしい明るさをもっていた。プレヴィンのなんともいえない‘艶’が、この音楽でも感じられた。

 演奏は飯森範親指揮の東京交響楽団。明るい音色で鮮やかな演奏だった。俳優は劇団昴の人たち。これもアフタートークで触れられていたが、残響の多いホールなので、苦労しているようだった。そのなかでは、医者を演じた人が一番聞き取りやすかった。翻訳・演出は村田元史。皆さんご苦労様でした。
(2013.9.10.サントリーホール)
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