Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ノリントン/N響

2013年10月21日 | 音楽
 ノリントン指揮のN響。1曲目はベートーヴェンの「エグモント」序曲。いつものノリントン節のベートーヴェンだが、それほど強烈ではなく、比較的おとなしかった。にもかかわらず、ブーイングが出た。かなり執拗だった。ノリントンのベートーヴェンがどういうものかを知っている人の、確信的なブーイングではないかと思った。もちろんブーイングを飛ばすのは自由だが。

 2曲目はブリテンの「夜想曲」。ブリテンは大好きで、この曲もCDでは聴いているが、生で聴くのは初めてだ。なので、ひじょうに期待していた。だが、意外なことに、舞台から伝わってくるものが希薄だった。内心慌てた。どうしてなのかと思った。

 たぶん期待が大きすぎたのだろう。事前にイメージが膨らみすぎて、実際の演奏に合わせることができなかったのだろう。自分の責任だ。でも、それを承知でいわせてもらうなら、テノール独唱のジェームズ・ギルクリストの歌唱は静的すぎたのではないか。この曲はもっと振幅の大きい音楽ではないだろうか。ブリテンの室内オペラのエッセンスのような音楽ではないかと思うのだが。

 3曲目は「ピーター・グライムズ」から「4つの海の間奏曲」。これは名演だった。こんなに美しい演奏は聴いたことがないと思った。ノリントンのイギリス音楽は、ヴォーン・ウィリアムズの交響曲第5番の澄んだ音に感動して以来、つとめて聴くようにしている。「4つの海の間奏曲」も忘れられない演奏になりそうだ。

 最後はベートーヴェンの交響曲第8番。これは驚くべき演奏だった。とくに第4楽章は、たとえていうと、ものすごく速いテンポのアニメで、いくつものキャラクターが、入れ代わり立ち代わり出ては消えていくような――そんなイメージが浮かんでくるような――演奏だった。

 ものすごく楽しい演奏だった。と同時に、N響の優秀さにも舌を巻いた。技術的にもすごいが、ノリントン一流の流儀を今やすっかり身につけたことがわかった。N響は伝統を墨守するようなオーケストラではなく、――納得さえすれば――柔軟性を発揮するオーケストラなのだと思った。

 終演後は大きな拍手とブラヴォーが起きた。でも、よく聞くと、ブーイングをしている人がいた。最初の「エグモント」序曲と同じ人かもしれない。そうだとすると、ノリントンに抗議するために来ているのかもしれない。それもまたよし。そういう人がいてもいい。
(2013.10.19.NHKホール)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする