Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カエターニ/都響

2013年10月01日 | 音楽
 オレグ・カエターニ指揮の都響。今回はベートーヴェンとシューベルトというオーソドックスなプログラムだ。

 ベートーヴェンはピアノ協奏曲第3番。ピアノ独奏はフランスのヴェテラン、アンリ・バルダ。なんというのか、特別なことはなにもやっていないのに、注意を逸らさせない演奏だ。楽々とした呼吸感があり、フレージングが明快で、その流れに乗っているうちに、音楽の襞に分け入っていく感覚になる演奏。

 オーケストラもそうだった。楽々とした呼吸感はピアノと同じ。これがあの――緊密に構築された――ショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」を振った人かと思うくらいだ。

 正直な話、音楽を聴いているときに、仕事のことや私生活のことを考えてしまうことが無きにしもあらずだが、この演奏には無心に耳を傾けた。無心になることができる演奏だった。

 シューベルトは交響曲第8番「ザ・グレート」。出だしこそベートーヴェンと同じ感覚の演奏だったが、楽章を追うごとに音が締まっていき、ずしんとした手ごたえが出た。第4楽章の終結部は「レニングラード」の鮮烈さを彷彿とさせた。

 それにしてもこの曲、ベートーヴェンの交響曲第7番と似ていると思った――そのような指摘があるのかどうか知らないが――。もう何回聴いたかわからない曲だが、ベートーヴェンの7番と似ていると思ったのは初めてだ。

 第1楽章の長大な序奏はベートーヴェンの第1楽章の長大な序奏を連想させる。また第2楽章の歩むような楽想はベートーヴェンと似ていると思った。第3楽章のダイナミックなスケルツォはまさにベートーヴェン的。第4楽章の畳み掛けるようなリズムの饗宴はベートーヴェンの第4楽章からヒントを得ているといってもおかしくない気がする。

 シューベルトはベートーヴェンの器を借りて自らの歌を歌っているのではないか、と思った。もしかするとその署名として、第4楽章にベートーヴェンの歓喜の歌を引用したのかもしれない――むしろそうだったらいいな――と思った。

 こんなことを考えたのは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を聴いた後だったからかもしれない。あの曲はモーツァルトのピアノ協奏曲第24番との関連が指摘されているわけだが、そんなふうにベートーヴェンがモーツァルトと重なり、さらにシューベルトが重なっていく、そういう幸福な図式が見えた気がした。
(2013.9.30.東京文化会館)
コメント (6)
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