Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

沼尻竜典/東京フィル

2013年10月11日 | 音楽
 東京フィルのヘンツェ特集。去年はリゲティを取り上げた。リゲティは初期の作品を中心に、いかにもリゲティという曲を選んでいたが、今年のヘンツェは渋い感じがしないでもない。そもそもヘンツェという作曲家がそうだ――リゲティのようにその名を聞いただけである種のイメージが浮かぶタイプではない――ということかもしれない。今回の指揮は沼尻竜典。その本領が発揮されるプログラムでもあった。

 1曲目はピアノ協奏曲第1番。ヘンツェ初期の作品。第1楽章「アントレ」、第2楽章「パ・ド・ドゥ」、第3楽章「コーダ」という具合にバレエ用語が付けられている。たしかに作品の発想にバレエがあるような気がする。ただし、バレエの甘さはない。バレエはもっぱらリズムや楽器法に影響していると思った。

 ピアノ独奏は小菅優。このくらいの曲なら難なく弾いてしまうという風情だ。いつの日かこの人でシェーンベルクのピアノ協奏曲を聴いてみたいと思った。なぜそう思ったのだろう。確かな技術の故か、それとも曲想が似ているのか。

 2曲目は交響曲第9番。交響曲とはいいながらも合唱が主役だ。全7楽章、そのすべてで合唱が出ずっぱりだ。合唱がアンナ・ゼーガースの長編小説「第七の十字架」からとられた7つの場面を歌う。なので、実感としては、たとえば「『第七の十字架』からの7つの場面」と銘打った合唱作品のような感じがした。

 「第七の十字架」は1942年に発表された反ナチスの作品だ。日本語訳も出ている。できれば読んでから聴きたかったが、その時間はなかった。でも、この曲を聴き、プログラムを読むと、どんな作品かよくわかった。ナチスの恐怖が(発表当時)リアルタイムで伝わってくる作品だったはずだ。

 ヘンツェの曲のほうは、正直にいうと、わたし自身その切実さを捉えきれないもどかしさを感じた。おそらくドイツで演奏すれば、ものすごく切実に捉えられる曲だろうに――。これは言葉の壁かもしれない。あるいはドイツと日本のそれぞれが背負う歴史のちがいかもしれない。

 部分的には第5楽章「墜落」のオーケストラによる後奏が、一番聴き応えがあった。その部分の音楽がもっとも濃密で、表現主義的で、また演奏もよかった。

 合唱は東京混声合唱団。超難曲であるこの曲をよくまとめたと思う。PAを使っていたが、これはオーケストラとのバランスをとるためだったろう。
(2013.10.10.東京オペラシティ)
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