Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

旅日記1:ヴェルディのマイナー作品

2013年11月27日 | 音楽
 ハンブルク州立歌劇場の公演予定でヴェルディのマイナー作品3本のチクルスを見て、若杉弘が懐かしくなった。びわ湖ホールでやっていた公演は毎年楽しみだった。若杉弘がもし存命ならやりそうな企画だと思った。追悼の想いもあって行ってみた。

 演目は「レニャーノの戦い」、「二人のフォスカリ」そして「第1回十字軍のロンバルディア人」。いずれも本年10月下旬から11月上旬にかけてプレミエを迎えた。指揮はシモーネ・ヤング、演出はデイヴィッド・オールデン。3本とも共通のスタッフで制作する試みだ。

 オールデンの演出は――わたしには意外だったが――暗い情念の世界を描いたもの。舞台装置も照明も暗かった。さすがにツボは外さないが、いつものシニカルさはなく、また猥雑さもなかった。オールデンの演出はけっこう観ているが、こういう演出は初めてだ。

 正直にいって、オールデンにしては大人しいと思った。独自の視点が感じられなかった。なぜこうなるのかはわからなかった。聴衆に馴染みのない作品だからという理由は、少なくとも当地では通用しそうもないし、まさか作品に興味をもてなかったということでもないだろう。

 一方、シモーネ・ヤングの指揮は、がっちり構築された、遊びのないものだった。その力量はさすがだが、こういう演奏を聞いていると、この人は――ドイツ人ではないけれども――ほんとうにドイツ的なDNAをもった人なのだと痛感した。押しの強い演奏だ。

 こういう演奏とオールデンの演出とは、お互いに呼応している、ということもできる。これは十分に計算されたものかもしれない。そこに立ち上がってくる世界はきわめてドイツ的なヴェルディだ。ローカルなヴェルディ。それを嫌う人もいるかもしれない。でも、嫌って済ますのはちょっと単純すぎないか、そもそもヨーロッパとはローカルなものの集合体ではないかと思った。

 歌手では「第1回十字軍のロンバルディア人」のジゼルダを歌ったElza van den Heeverに注目した。声といい、表現の陰影といい、すばらしかった。一方、「レニャーノの戦い」のリーダで代役に立った歌手はまったく非力だった。

 個々の作品では圧倒的に「二人のフォスカリ」が面白かった。ごく若い頃の作品だが、バリトンが歌う父親のフォスカリには中期以降の傑作を書く条件がもうすべて整っていることが感じられた。
(2013.11.20~22.ハンブルク州立歌劇場)
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