Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

マグリット展

2015年06月05日 | 美術
 マグリット展に行ってきた。本当はもっと早く行きたかったのだが、宮崎県立美術館所蔵の「現実の感覚」(1963年)の展示が5月13日以降だったので、じっと我慢していた。

 「現実の感覚」は名作「ピレネーの城」(1959年)の別ヴァージョンだ。「ピレネーの城」では、海の上に巨大な岩石が浮いている。その岩石の上部には城がある。一方、「現実の感覚」では、広大な山河の上に岩石が浮いている。その上に城はない。その代わり――なのかどうか――空には細い三日月がかかっている。

 いずれにしても、宙に浮いた巨大な岩石という、現実にはありえないイメージだ。ハッとする。これはなんだろうと思う。どんな意味があるのだろう――。そして同時に、美しさを感じる。でも、その美しさは説明できない。マグリット自身の言葉を借りれば‘詩’ということになるだろう。たしかにその言葉でしか言い表せない。

 題名にも躓く。「現実の感覚」とはなんだろう。今回の展示では、マグリット自身の解説が掲示されていた。でも、それを読んでもピンとこない。

 マグリットの楽しみ方は、イメージをそのまま受け取ること。分からなくても、分からない状態を受け入れること。そして題名は一つの解釈にすぎないと割り切って、自分の解釈を楽しむこと。――そんなことになるのではないだろうか。

 個々のパーツは具象的だ。広大な山河の眺め、巨大な岩そして細い三日月。でも、その岩が宙に浮いている。そのショックを受け入れたとき、現実を見るわたしたちの目が少し変わる。当たり前だと思っていたものが、当たり前に見えなくなる。

 前述したように「現実の感覚」は宮崎県立美術館の所蔵だ。本作に限らず、今回展示されている作品には、国内美術館所蔵の作品が多く含まれている。たとえば、昔わたしが初めてマグリットを好きになった「大家族」(1963年)は、宇都宮美術館所蔵だ。荒れた海。暗い雲。だが、水平線の彼方には、巨大な鳩のシルエットが浮かぶ。そのシルエットは青い空と白い雲でできている。平和のメッセージを感じた。

 その他の国内美術館の所蔵作品も、上質のものが多い。煩瑣になるので作品名は控えるが、美術館名だけ挙げると、横浜美術館、ポーラ美術館、新潟市美術館、メナード美術館、大阪新美術館建設準備室、姫路市立美術館……。

 日本は意外にマグリット大国なのかもしれない。
(2015.6.3.国立新美術館)

(※)本展のHP
コメント (1)
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