Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラザレフ/日本フィル

2015年06月13日 | 音楽
 ラザレフの日本フィル首席指揮者としての任期も残すところあと1年。退任後は桂冠指揮者兼芸術顧問として年2回は来日するそうだから、日本フィルとのつながりが切れることはないが、今のように日本フィルを鍛えることができるかどうか。むしろその役割はインキネンに引き継がれるのだろうか。

 ともかくラザレフは日本フィルの救世主だった。アンサンブルが崩れ、客足が遠のいた日本フィルを救った。昨日の定期はショスタコーヴィチがメイン・プロだった。集客の難しいショスタコーヴィチにもかかわらず、客席はよく埋まっていた。ラザレフにたいする評価の高まりの表れだろう。

 わたしは読響の定期会員でもあるので、ラザレフはよく聴いていた。グラズノフの交響曲第5番などは名演だった。そのラザレフが日本フィルの‘顔’になるとは夢にも思わなかった。ラザレフは指揮者としての力量だけではなく、聴衆とのコミュニケーション能力にも長けている。現に昨日の定期の後で行われたラザレフのアフタートークでは、暖かい空気が流れ、ラザレフが聴衆から愛されていることが伝わってきた。

 さて昨日の定期だが、1曲目はブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番。ヴァイオリン独奏は堀米ゆず子。使用楽器はグァルネリだそうだ。本当によく鳴る。オーケストラを向こうに回して鳴り渡っている。演奏もすでに巨匠の域だ。曲の隅々まで歌いこみ雄弁なことこの上ない。オーケストラもぴったり付いている。ラザレフはバックがうまい。

 アンコールが演奏された。なんだろう。バッハではないような気がしたが、バッハだった。無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番からラルゴ。

 2曲目はショスタコーヴィチの交響曲第8番。大音量の咆哮から薄いひびきの弱音まで、ダイナミックレンジの広さは驚異的だが、大事な点はそれらが完璧にコントロールされていることだ。その統率力に感嘆する。

 しかもダイナミックレンジの広さは、スコアが要求しているものであって、けっして演出上の効果を狙ったものではない――と、そう信じられることが、ラザレフのいいところだ。過剰も過少もない。スコアをあるべき姿で鳴らした演奏。でも、スコアから読み取る音楽が桁外れなのだ。

 最後の音が消えてからも、ラザレフは指揮を止めなかった。いつまでも小刻みに手を震わせていた。無音さえも指揮していた。空前絶後の瞬間だった。
(2015.6.12.サントリーホール)
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