METライブビューイングで新作オペラ「マーニー」を観た。ニコ・ミューリーの作曲。1981年生まれの若い人だ。本作は3作目のオペラ。2017年にイングリッシュ・ナショナル・オペラ(以下「ENO」)で初演された。メトロポリタン歌劇場(以下「MET」)での初演は2018年10月。
「マーニー」はヒッチコック監督の映画で有名になった。原作はウィンストン・グラハムの小説。METライブビューイングの幕間のインタビューによると、今回演出を手掛けたマイケル・メイヤーがMETにオペラ化を持ちかけた。「作曲はだれに頼む?」と訊かれて、「もちろんニコだよ!」と答えたそうだ。
それから5年かかった。ENOでの初演後、METでの初演に向けて、さらに手直しをした。新作オペラが生まれるまでの創造行為が窺われる。それと同じことが今、新国立劇場でも行われ、「紫苑物語」が誕生しようとしているわけだ。
オペラ版「マーニー」の台本はニコラス・ライトの作成。わたしは映画も小説も未見(未読)だが、これも幕間のインタビューによれば、オペラ版は映画よりも小説のほうに近いという。
マーニーとはある美女の名前。だが、本当の名前はだれも知らない。マーニーには盗癖がある。どこかの会社に雇われては、金庫から金を盗み、行方をくらます。名前を変えて別の会社に雇われて、金庫から金を盗んでは、また行方をくらます。それを繰り返す。なぜマーニーには盗癖があるのか。マーニーの心の中にはどんな闇が潜んでいるのか――という話。
暗い話だが、オペラでは(思いがけず)マーニーに共感できる。マーニーだけではなく、マーニーを取り巻くマーク(マーニーの盗癖を知りながら雇用し、マーニーの盗みの現場を押さえて、警察に通報しない見返りに、結婚を強要する)やテリー(マークの弟。マーニーをポーカー・ゲームに誘い出し、犯そうとする)にも共感できる部分がある。この辺は「カルメン」の場合のメリメの暗い小説と、ビゼーのオペラとの関係に似ているかもしれない。
ニコ・ミューリーの音楽は、ジョン・アダムズやフィリップ・グラスの音楽をもっとポップにしたようなもの。平易で口当たりがいい。マーニーを歌ったイザベル・レナードはスター性十分。マイケル・メイヤーの演出は、瞬時に、しかも転々と変わる場面を、なんの無理もなく舞台化した。演出で何ができるかの見事な実例だ。
(2019.1.21.新宿ピカデリー)
「マーニー」はヒッチコック監督の映画で有名になった。原作はウィンストン・グラハムの小説。METライブビューイングの幕間のインタビューによると、今回演出を手掛けたマイケル・メイヤーがMETにオペラ化を持ちかけた。「作曲はだれに頼む?」と訊かれて、「もちろんニコだよ!」と答えたそうだ。
それから5年かかった。ENOでの初演後、METでの初演に向けて、さらに手直しをした。新作オペラが生まれるまでの創造行為が窺われる。それと同じことが今、新国立劇場でも行われ、「紫苑物語」が誕生しようとしているわけだ。
オペラ版「マーニー」の台本はニコラス・ライトの作成。わたしは映画も小説も未見(未読)だが、これも幕間のインタビューによれば、オペラ版は映画よりも小説のほうに近いという。
マーニーとはある美女の名前。だが、本当の名前はだれも知らない。マーニーには盗癖がある。どこかの会社に雇われては、金庫から金を盗み、行方をくらます。名前を変えて別の会社に雇われて、金庫から金を盗んでは、また行方をくらます。それを繰り返す。なぜマーニーには盗癖があるのか。マーニーの心の中にはどんな闇が潜んでいるのか――という話。
暗い話だが、オペラでは(思いがけず)マーニーに共感できる。マーニーだけではなく、マーニーを取り巻くマーク(マーニーの盗癖を知りながら雇用し、マーニーの盗みの現場を押さえて、警察に通報しない見返りに、結婚を強要する)やテリー(マークの弟。マーニーをポーカー・ゲームに誘い出し、犯そうとする)にも共感できる部分がある。この辺は「カルメン」の場合のメリメの暗い小説と、ビゼーのオペラとの関係に似ているかもしれない。
ニコ・ミューリーの音楽は、ジョン・アダムズやフィリップ・グラスの音楽をもっとポップにしたようなもの。平易で口当たりがいい。マーニーを歌ったイザベル・レナードはスター性十分。マイケル・メイヤーの演出は、瞬時に、しかも転々と変わる場面を、なんの無理もなく舞台化した。演出で何ができるかの見事な実例だ。
(2019.1.21.新宿ピカデリー)