Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ソヒエフ/N響

2019年01月28日 | 音楽
 N響のAプロ。わたしは2日目の会員なのだが、今月は用事があったため、1日目に振り替えた。1曲目はリャードフの交響詩「バーバ・ヤガー」。この曲や「魔の湖」など、リャードフは視覚的に鮮やかな曲を書いた人というイメージがあるが、さて、その全貌となると、さっぱりイメージがわかない‥。

 「バーバ・ヤガー」は演奏時間約3分の短い曲だが、その中には山も谷も作りこまれていて、さすがだと思った。ソヒエフ/N響は息の合った演奏を聴かせた。

 2曲目はグリエールのハープ協奏曲。ハープ独奏はグザヴィエ・ドゥ・メストレ。これはメストレの名演に酔う演奏だった。優雅なだけでなく、時には力強く、アグレッシヴに弾いていく。ほとんど聴こえないくらいの微小な音から、NHKホールの巨大な空間に鳴り響く太い音まで変幻自在。それらの音に翻弄される心地よさを堪能した。

 それにしてもこの曲はロマンチックな曲だ。懐かしい映画を観ているような曲。でも、プログラム・ノーツを読んで気が付いたのだが、作曲年代は1938年。ヒトラーが政権を取ったのが1933年だから、それから5年後だ。当時のヨーロッパ情勢は緊迫の度を深めていた。と同時にソ連ではスターリンの大粛清が吹き荒れていた。そんなご時世に頓着なく、春風駘蕩(といっては失礼だが)のこんな曲をよく書けたものだと思った。

 グリエールってどういう人だろうと、少し調べてみた。1875年生まれ(没年は1956年)のロシア人(時代的にはむしろソ連人)。生地はウクライナのキエフだが、父はドイツ人、母はポーランド人で、ロシア人の血は入っていない。革命後のソ連ではモスクワ音楽院で教鞭を執り、またソ連作曲家同盟の要職にも就いた。

 と、こういう人なのに、社会主義リアリズムの痕跡もないことが、むしろおもしろいと思った。時々演奏会のプログラムに載るコロラトゥーラ・ソプラノのための協奏曲も、ハープ協奏曲と似たような曲なので、そんなロマンチックな作風には案外反骨精神が隠されていたかもしれない。

 メストレのアンコールがあった。ゴドフロワの「ヴェニスの謝肉祭」。舌を巻くような名演だった。

 3曲目はベルリオーズの「イタリアのハロルド」。ヴィオラ独奏はN響首席の佐々木亮。悪い演奏ではなかったが、演奏中はしきりにカンブルラン/読響の名演(2014年1月)が脳裏に浮かんだ。あのリズムのキレの良さは、今回の演奏にはなかった。
(2019.1.26.NHKホール)
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